これで最後です。 さて、石原氏はよく天才的なポピュリストだと言われています。昔から、大衆の欲望を救い上げるのに天才的な才能を持っている、という評価です。どうしてそうなのだろう、と疑問に思っていましたが、いま思うのは、石原氏自信が甘えを求める願望を持っているからこそ、大衆の「甘えを求める願望」に敏感なのではないかということです。つまり、甘えさせてあげられるような主張なり政策なりを、適切なターゲットに適切に提供できるということです。 今回取り上げている大塚氏の本書(「サブカルチャー文学論」(朝日文庫))の中で、石原氏は昔からタフなネゴシエーターとしての能力も持っていると書かれています。かつて「太陽の季節」がヒットして弟の石原裕次郎を主演にした映画が大ヒットしたあと、ある映画会社が次の小説の映画化権を買いたいと持ちかけてきたことがあるそうです。そのとき、「次の小説」は題名もプロットもまだ何も決め