揚子江の下流、江蘇省南部に「中国一金持ちの村」と呼ばれる集落がある。改革・開放政策の波に乗り、稲作中心の農村から一大企業集団に変身して成功を収めた華西村だ。都市と農村の経済格差が広がる中国の中で、異質の存在となっている「豊かな農村」。そこで生まれている旧住民と新住民の格差は、中国社会が抱える構造的矛盾を映し出していた。 (華西村 矢板明夫、写真も) ユートピア 目的の村には、上海の虹橋空港から高速道路を西へ約2時間走ってようやくたどり着いた。村の招待でともに取材に訪れた欧州の男性記者が漏らした。「ここがユートピアか」 緑の中を真新しい舗装道路が走り、欧州風の別荘と見間違うような3階建ての住宅が整然と並んでいる。村の中心部にはホテルや飲食店が入った高層ビルがそびえ立っていた。 案内役の趙友高氏(37)は「別荘はすべて村民の住宅で平均面積は400平方メートル以上だ。ほとんどの家庭はベンツやBM