人の生命がかかった審理がこのようなものでいいのか。釈然としない思いがぬぐえない。 52年前に静岡県で4人が殺された事件で死刑が確定した袴田巌さんについて、東京高裁は裁判のやり直しを認めない判断をした。静岡地裁の再審開始決定を取り消したが、身柄を拘置所に戻す措置はとらなかった。 地裁の段階で6年、高裁でさらに4年の歳月が費やされた。それだけの時間をかけて納得のゆく検討がされたかといえば、決してそうではない。 結論を分けたのは、犯行の際の着衣とされたシャツなどの血痕のDNA型鑑定だ。地裁は、弁護側が提出した新鑑定を踏まえ、「犯行時のものではない疑いがある」として再審を認めたが、高裁は「鑑定手法には深刻な疑問がある」と退けた。 この決定に至るまでの経緯は、一般の市民感覚からすると理解しがたいことばかりだ。 まず、別の専門家に再鑑定を頼むかで長い議論があった。実施が決まると、その専門家は1年半の時