ただいま話題のあのニュースや流行の出来事を、毎月3冊の関連本を選んで論じます。書評として読んでもよし、時評として読んでもよし。「本を読まないと分からないことがある」ことがよく分かる、目から鱗がはらはら落ちます。PR誌「ちくま」2020年7月号より転載。 新型コロナウイルス感染症の拡大による政府の緊急事態宣言は五月二五日、いちおう解除された。とはいえ暮らしが元に戻ったわけではない。そんな中、あえて文学方面に目をやると、新潮文庫のアルベール・カミュ『ペスト』が二月から売れはじめ、四月には一〇〇万部を突破したというニュースが特筆されよう。 なにしろ人類は感染症とともに歩んできたのだ。パンデミック下の世界を描いた作品は多々あって、古いところではボッカチオ『デカメロン』(一三五三年)が有名だ。一四世紀のフィレンツェで、ペストが蔓延する市中から郊外に逃れた一〇人の男女が、一人一〇話ずつ全一〇〇話の物語