「古本屋の看板を気を付けて見てみなさい。『高価買い入れ』とあっても、『古本売ります』とは書いていないでしょ。買い取りこそ腕のみせどころですから」。ある古書店主にそう教わった。言われてみると確かに「売ります」は少数派だ▲「せどり」という商いがあることも聞いた。見知らぬ土地の古書店に飛び込む。書棚に並んだ背表紙をざっと見回すと、結構な値打ち本がほこりをかぶっている。それを安く買い、転売するのである。目利きを競う古本屋の他流試合みたいなものか▲だがこの手だれの古書店主にしても、近ごろ書物の“自炊”がはやっていると聞けば驚くだろう。自分で本を裁断し、1ページずつスキャナーで読み込んで電子書籍にすることを指す隠語だ。iPadなどの登場で注目され、高価な裁断機が売れているという▲本の悲鳴が聞こえてきそうな蛮行である。いや、「陶板や木簡から紙に変わったのが、今度は電子データになっただけ」とドライな考え方