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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (269)

  • 「釈迦物語」はスゴ本

    肉体をもち、生きた人間としての釈迦の話。 生々しい伝説からドラマティックな要素を剥ぎ取り、淡々とした筆致で諄々と説くのはひろさちやの十八番。一緒に解説される仏教の知識は、わたしの蒙を啓くのに役立った。 わたしが仏教を学ぶのは、楽に、幸せに生きるLifeHackがあるのじゃないかという卑俗な動機から。たとえば、怒りを"手放す"ための「怒らない技術」や、心配事で心のキャッシュメモリをいつぶさせないための「考えない技術」は、そこから得たもの。tumblrで拾ったブッダの言葉は、手帖の1ページ目に書きつけてある。悟りを得ると、「"いま"が見える」というのは、「あっかんべェ一休」から得たものだ。 過去にとらわれるな 未来を夢見るな いまの、この瞬間に集中しろ Do not dwell in the past, Do not dream of the future, Concentrate the

    「釈迦物語」はスゴ本
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/05/09
  • 生き方とは住まい方「東京R不動産2」

    「性格は顔に出る、生活は体型に出る」という寸鉄がある。これに「生き方は住まいに出る」を加えたい。というのも、書には、ユニークな物件を住みこなしている人となりが強く出ているから。 「Real Tokyo Estate / 東京R不動産」は、新しい視点で不動産を発見し、紹介していくサイトだ。ありがちな『ふつうの』物件を集めて、立地と広さと価格をデータベース化したものではない。エッヂの利いたこだわりや独自嗜好をもつ人と、『ふつうじゃない』物件をマッチングさせる出会いサイトだといっていい。さらに、「欲しいのがないなら、作ればいい」と建築プロデュースやリノベーションまで手がけてしまう。 その中で、コレハ!というのを集めものが書になる。いわば、不動産のセレクトショップのカタログなのだ。マニアックな物件を見ていると、住まう発想を縛っていた制約がとっぱらわれる快感を味わう。住宅情報誌を眺めて「いいなぁ

    生き方とは住まい方「東京R不動産2」
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/04/05
  • 「白鯨」は、スゴいと言うより凄まじい

    メルヴィルは、「鯨辞典」を書こうとしたに違いない。だが、あまりの博覧狂気っぷりに読者は逃げ出すだろうと踏んで、興味をつなぎとめるため、モービィ・ディックとエイハブの物語を織り込んだのだろう。 あるいはメルヴィルは、30人の命を奪い、3隻の捕鯨船と14艘の捕鯨ボートを破壊し、2隻の商船を沈没させた「モチャ・ディック」というマッコウ鯨(実話)をテーマに、冒険小説を書こうとしたに違いない。だが、鯨そのものに魅了されるあまり、ついには関連するネタ全てをぶちこんだ全体小説に仕立てたのだろう。 そう、これはラーメンでいうなら「全部入り」、小説ならば「ピンチョン」だ。執念と薀蓄が詰まったどんぶりに顔つっこんでむさぼり喰らう読書になる。その生態から始まり、消化器官や神経系の詳細な説明や骨相学的見解を逐一述べる一方で、苛酷な捕鯨の現場を簡素かつ的確かつ生き生きとリポートする。見つけ、追いつめ、しとめる場面は

    「白鯨」は、スゴいと言うより凄まじい
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/03/28
  • この新潮文庫がスゴい!(徹夜小説編)

    「マイベスト新潮文庫」を探すべく、書棚と脳裏を漁るのだが……出るわ出るわ、記憶からも積山からも怒濤のごとく、文芸、海外歴史、冒険、ミステリ、ファンタジー、ドキュメンタリー、エッセイ……ありすぎて選べない。 だから、も一つ「しばり」を設ける。それは「徹夜小説」であること。ひたすら面白く、寝を忘れて読みふけった鉄板を挙げる。くれぐれも、明日がお休みの夜を見計らって手にしてほしい。 ■「シャンタラム」 グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ 未読なら、おめでとう。「これより面白いのがあったら教えてくれ」という傑作だから。憑かれたように読みふけり、時を忘れる夢中だ。(わたしは4回乗り過ごし、2度事を忘れ、1晩完徹した)。巻措く能わぬ程度じゃなく、手に張り付いて離れない。とにかく先が気になって気になって仕方がない。前知識は邪魔、完全に身を任せて、物語にダイブせよ。 とはいうものの、蛇足気味に補足

    この新潮文庫がスゴい!(徹夜小説編)
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/03/05
  • 手塚治虫の戦争ポルノ「人間ども集まれ!」

    戦争ポルノ(war porn)なる言葉がある。安全で暖かいところから、ネット越しで、冷酷で残虐な戦場を観覧する。一種の恐いもの見たさで、いかがわしい好奇心を満たしてくれる。無人偵察機が写したり、収容所で隠し撮りされた映像を後ろめたい気分で眺めていると、つくづく戦争はショーなんだと痛感する。 戦争をショーだと喝破したのは、何もわたしが初めてじゃない。いまどきの人なら、森博嗣or押井守の「スカイ・クロラ」だろうが、残念!積山の中。オッサンなわたしは「銀河鉄道999」のライフル・グレネードのエピソードを思い出す。これは物の戦争を観光資源としている話だ───なんてつぶやいていたら、当たりを教えてもらう。手塚治虫の「人間ども集まれ!」だ(ありがとうございます、ひできさん)。 ナンセンス風刺とでもいうべきか。太平洋戦争~ベトナム戦争、冷戦の時代を映し替え、セックスとバイオレンスとギャグてんこ盛りの"

    手塚治虫の戦争ポルノ「人間ども集まれ!」
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/02/13
  • 「八月の砲声」はスゴ本

    ノーベル平和賞を受賞したノーマン・エンジェルは、国際平和における経済の相互依存関係を重視した。ベストセラーとなった「大いなる幻影」で、これだけ財政・経済が緊密にからみあう現状では、戦争は実行不可能だと証明した。第一次世界大戦が勃発する5年前のことだ。 もちろん戦争は外交の延長にあるが、為政者は戦争を避けたいと考える。勝っても負けても苦しい目にあう、割りに合わないものだから。では、"なぜ"戦争が起きるのか?ピューリッツァーを受賞した「八月の砲声」を読むと、この設問が誤っていることに気づく。 どんな国も戦争を起こすようなバカなまねはしたくないはず。「だが、"なぜ"戦争が起きるのか」…この問いからは、戦争が起きる理由をたどれない。正しくは、"なぜ"戦争をしたかではなく、"どのように"戦争に至ったのか、になる。 なぜなら、戦争の理由を追求すると、イデオロギーになるから。"なぜ"をつきつめると、「悪

    「八月の砲声」はスゴ本
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/02/10
  • 徹夜小説「シャンタラム」

    鉄板で面白い小説はこれ。 もしご存じないなら、おめでとう ! あらすじも紹介も無いまっさらな状態で、いきなり読み始めろ(命令形)。新潮文庫の裏表紙の"あらすじ"すら見るの厳禁な。あと、上中下巻すべて確保してから読み始めるべし。さもないと、深夜、続きが読みたいのに手元にないという禁断症状に苦しむことになるだろう。 どれくらい面白いかというと、ケン・フォレット「大聖堂」、中島らも「ガダラの豚」、古川日出男「アラビアの夜の種族」級といえば分かるだろうか。要するに、「これより面白いのがあったら教えて欲しい」という傑作だ。寝惜しんで憑かれたように読みふけり、時を忘れる夢中(わたしは4回乗り過ごし、2度事を忘れ、1晩完徹した)。巻措く能わぬ程度じゃなく、手に張り付いて離れない。とにかく先が気になって気になって仕方がない。完全に身を任せて、物語にダイブせよ。 このエントリも含めて前知識は邪魔。読め

    徹夜小説「シャンタラム」
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/01/20
  • 「戦争の世界史」はスゴ本

    ギルガメシュ王の戦いから大陸弾道ミサイルまで、軍事技術の通史。人類が「どのように」戦争をしてきたかを展開し、「なぜ」戦争をするのかの究極要因に至る。書は非常に野心的な構想に立っている。軍事技術が人間社会の全体に及ぼした影響を論じ、戦争という角度から世界史を書き直そうとする。 最初は大規模な略奪行為だったものから、略奪と税金のトレードオフが働き、組織的暴力が商業化する。戦争という技芸(art of war)を駆使する専門技術者が王侯と請負契約関係を結ぶ。常時補給を必要とする野戦軍を、その経済的作用から「移動する都市」と喝破したのはスゴい。略奪して融かされた金銀地金は市場交換を促進し、従軍商人は日用品から武器まで売りつけていたから。 そして、現代の軍産複合体の前身にあたる軍事・商業複合体が形成され、ライバルとの対抗上、この複合体に依存して商業化された戦争を余儀なくされる。民間から集めた税金で

    「戦争の世界史」はスゴ本
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/01/11
  • 食欲だけが、死ぬまで人間に残る「ラブレーの子供たち」

    べることは生きること。生きることを文学から知ろうとした人にとって、書は、懐かしくも未知の味に充ちている。 著名な芸術家が何を好んでべてきたかを調べあげ、その料理を再現する。それをみずから口に運び、かの人の「人となり」に思いを馳せるコンセプト。愛好している料理から、その人物の幸福感、ひいては世界観を引き出そうとする。ブリア=サヴァランのこの箴言を、素直にリアルに追求しているね。 「何をべているのか言ってごらんなさい、あなたがどんな人だか言ってみせましょう」 俎上にあがるのは、ロラン・バルトの天ぷら、小津安二郎のカレーすき焼き、谷崎潤一郎の柿の葉鮨など、いかにも美味そうな一品から、魔女の蛙スープ、ウナギのクリーム煮など、ちょっと遠慮したいものまで。 こういうは、書き手の読量がモノを言う。料理の感想文ではないのだから。たとえ素朴な料理でも、その背後の思想まで透徹するぐらい作品を読み込ん

    食欲だけが、死ぬまで人間に残る「ラブレーの子供たち」
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/01/06
  • 現実はSFよりもSFだ「ロボット兵士の戦争」

    現実はSFよりもSFだ。しかも、SFよりも「お約束」な展開が恐ろしい。 革新のスピードが速すぎて、考えるのをやめ、「なりゆきを見守っている」のが、現状になる。SF好きには堪らないだろう。なんせ、ロボット兵を作り出すアイディアを、SFから拝借しているどころか、SFでもやらないベタな地雷を正確に踏んでいるのだから。 軍用ロボット技術の現状を洞察し、イラクやアフガニスタンで活躍する無人システムを、(良いとこ悪いとこ含めて)解説する。紹介される無人偵察機やロボット兵はSFまんまだけれど、だいたい想像つく。むしろ、使い勝手の良さや、ユーザ巻込み発想はスゴい。 たとえば、ルンバで有名なiRobot社のPackBot(パックボット)は、箱から出してすぐ使える。8つのペイロード・ベイがあり、地雷探知機や生物化学兵器センサー、ズームカメラなど何でも搭載できる。イラクではカメラ+かぎ爪を組み合わせ、遠隔地から

    現実はSFよりもSFだ「ロボット兵士の戦争」
    RanTairyu
    RanTairyu 2012/01/04
  • 過去なのに今、遠いのにここにある感覚「ゴーストタウン―――チェルノブイリを走る」

    過去なのに「いま」の感覚に襲われる。むかし読みふけったサイトがになったのだ。時間も距離も、遠い大事件だったものが、凄く身近に感じられる。 彼女の名はエレナ、バイク乗りだ。カワサキのニンジャを駆ってあの土地を旅する。豊富な写真と淡々とした体言止めコメントが印象的だ。驚くほど自然に還っている建造物や、誰もいない世界の様は、人類史後を眺めているようだ。ある特定の廃屋や廃ビルの「写真集」ではない。バイクに乗って延々と走っても走っても、遺棄された光景が続く。危険なので地図からも抹消されている。場所が丸ごと捨てられているのだ。 それでも、人がいる。興味位の「観光客」ではなく、自分の家に戻ってきて自活している人々だ。原子炉50キロ南に住む老人がいる。放射能汚染で移住を余儀なくされたものの、見知らぬ土地で死ぬよりも、自分の家で死にたいという。自分の畑の野菜をべ、飼っている牛のミルクを飲んで生きている

    過去なのに今、遠いのにここにある感覚「ゴーストタウン―――チェルノブイリを走る」
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/12/23
  • 料理はヒトの生存戦略「火の賜物」

    書の結論は、「ヒトは料理で進化した」になる。 すなわち、ヒトをヒトたらしめているのは料理になる。ヒトは料理した物に生物学的に適応したと主張する。体のサイズに比べて小さい歯や顎、コンパクトな消化器官、生理機能、生態、結婚という慣習は、料理によって条件づけられてきたというのだ。 解き明かしの前に、問題を一つ。イギリスBBCのドキュメンタリーがある実験を行ったのだが、予想外の結果が得られた。その理由を考えてみよう。正答できるなら書を読むまでもないだろう。 実験名は「イヴォ・ダイエット」。重症高血圧の志願者が12日間、動物園のテントの仕切りで類人猿に近い生活を送る実験で、あらゆるものをほとんど生でべたのだ。「イヴォ」とは、この生活により進化(evolve)したからという意味。 べたものは、ピーマン、メロン、キュウリ、トマト、ニンジン、ブロッコリー、ナツメヤシ、クルミ、バナナど50種を超

    料理はヒトの生存戦略「火の賜物」
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/12/19
  • 「疫病と世界史」はスゴ本

    感染症から世界史を説きなおしたスゴ。 目に見えるものから過去を再現するのはたやすい。事実、書簡や道具から過去を再構成することが歴史家の仕事だった。が、この一冊でひっくり返った。「目に見えなかったが確かに存在していたもの」こそが、人類史を条件付けていたことが、この一冊で明らかになった。 著者はウィリアム・マクニール、名著「世界史」で有名だが、書では、感染症という観点から世界史を照らす。欠けている部分は推理と計算を駆使し、見てきたかのような想像力を見せつける。それは、面白いだけでなく、状況証拠を示すことで強力な説得力を併せ持つ。 書の結論はこうだ。 人類の出現以前から存在した感染症は、人類と同じだけ生き続けるに違いない。人類の歴史の基的なパラメーターであり、決定要因であり続ける。 書は、宿主である人と病原菌の間の移り変わる均衡に生じた顕著な出来事を探っていく。帝国や文明の勃興・衰亡レ

    「疫病と世界史」はスゴ本
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/12/16
  • スゴ本オフ@2011ベスト

    好きなを持ちよって、飲みつつべつつ熱く語るスゴオフ。 今回は(というか毎回)スゴいが集まった。あと甘(うま)い酒と美味しい料理を堪能した。質量ともに凄いレポートは、ずばぴたさんのまとめ「スゴオフ2011年ベスト」を参照いただくとして、ここでは思い出すままつらつら書く(妄想込み)。 まず、参加いただいた方、協力いただいた方、ありがとうございます。毎回毎回語っているんだけど、「今回が最高」でした。やるたびに発見と読みたいリストがガンガン増えていくので、嬉しい悲鳴が止まらない。 そして、見てみて、狩りの成果。 全ラインナップは、以下の通り。 【やすゆき】「アイの物語」山弘 【やすゆき】「What'sGoingOn」MarvinGaye(CD) 【やすゆき】「Unforgettable」NatalieCole(CD) 【ともこ】「サザエさん」長谷川町子 【Dain】「千夜一夜物語」リチ

    スゴ本オフ@2011ベスト
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/12/06
  • 「要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論」はスゴ本

    経済学者が嫌いだ。 イソターネットで可視化された「経済学者」は、嘘つきで尊大で、自分以外は馬鹿に見えるらしい。誤りを指摘されると、猛々しく開き直り、詭弁を弄して話をすりかえる。「経済学者だから、さぞ金持ちだろう」は冗句だが、「経済学者だから、リーマンショックは予見しただろう」は洒落にならぬ。「経済学者が集まったから、EUクライシスの処方箋がまとまるだろう」は、もはや寝言だ。 しかし、わたしが間違っていた。ダメな「経済学者」がいるかもしれないが、「経済学」は価値がある、まちがいなく。ずっと避けてきたのに、とうとう出てしまったのだ、「ケインズ一般理論」の要約版が。岩波文庫で何度も撃沈していたものを、ていねいに噛み砕き、今に合わせて剪定してある。ありがたく感謝して読む。 もちろん一読で理解できるはずもないが、どこまで分かっていて、どこまで分かっていないかが、判別できた(←これ重要)。なのでクルー

    「要約 ケインズ 雇用と利子とお金の一般理論」はスゴ本
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/11/25
  • 雲マニア必携「驚くべき雲の科学」

    雲フェチならずとも魅了される。 オッサンになっても空を見るのは、いつまでたっても厨二だから。刻々と姿を変える層雲のうねりに魅入り、巻雲の高みを想像して地べたの自分を見下ろしたり、いろいろ遊べる。デカい低気圧(必ずしも台風に非ず)がやってくるとわけもなく興奮し、取乱し、窓を開けて空を見る。雲マニアまでいかないけど雲好き。そんなわたしが大興奮した写真集。 奇妙な雲、めずらしい雲、レアな空の現象を集めているのだが、「雲」っぽくない。理由は、撮った場所にある。山頂や飛行機の窓、はたまた人工衛星から撮影した「雲」は、別の何かに見える。たとえば、太平洋上の層積雲は、雲というより、洋上を浮遊する氷棚に見える。ちょうど割目が氷のそれとそっくりなのだ。圏外から大気を眺めると、雲と地球の距離はほぼ無いに等しい。薄い膜(殻?)のような存在になる。 バラエティー豊かな雲を眺めていると、そこが空であることを忘れてし

    雲マニア必携「驚くべき雲の科学」
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/11/18
  • ぐっと胸が温まる「レイモンド・カーヴァー傑作選(Carver's Dozen)」

    村上春樹と池澤夏樹に感謝。 優れた小説家の仕事は、小説を書くだけでは不十分で、他の作品を紹介することにある。優れた書き手は、優れた読み手でもあるから。池澤夏樹の小説はもう読まないが、彼が選んだ「世界文学全集」は鉱脈を見つける助けになった。村上春樹の小説はもう読まないが、彼が訳したレイモンド・カーヴァーのこの短篇集は素晴らしい。 出会いは、池澤夏樹が「短篇コレクションI」に入れた「ささやかだけど、役に立つこと」。これはグッとくる、というか涙した。これほど平易な言葉で、これほど深いところまで届くのか、と驚きながら湧いてくる気持ちに感情を委ねた。 乾いた文体でレポートされたような"悲劇"。感情を具体的な語で指さず、淡々と行動で記録してゆき、ラストの最後の、「ささやかだけど、役にたつこと」のところで綿密に描写する。そのワンシーンだけが読後ずっと後を引くという仕掛け。これは狙って書いて、狙って訳して

    ぐっと胸が温まる「レイモンド・カーヴァー傑作選(Carver's Dozen)」
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/11/13
  • 料理を好きに自由にする「料理の四面体」

    読んだら覚醒した。料理が好きに自由になるスゴ。 たとえばオレンジページの「絶品ベスト20レシピ」があるとしよう。すると、その20品しか作れない。20だって凄いのだが、いかんせん替えが利かない。材や調味料が欠けると作れない。つまり、わたしにとって料理とは、「レシピ通りに切ったり火を通すプロセス」に過ぎなかった。 それだけでない。実は、書に出会う前に、衝撃的な料理べた。 一つは「大根のコンソメ煮」もう一つは、「白菜サラダ」だ。「大根のコンソメ煮」は、面取りした大根をコンソメスープでひたすらぐつぐつ煮込んだやつ。「白菜サラダ」は適当に切った白菜にドレッシングをかけたやつ。 なんだぁフツーと言うなかれ。わたしがガツンとやられたのは、「大根は出汁+醤油か味噌で」「白菜は鍋物」しかなかったから。大根とは根菜だから人参や玉葱と一緒だから、コンソメ煮も美味しい。白菜とは葉物だからサラダになる←そ

    料理を好きに自由にする「料理の四面体」
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/11/06
  • 大化けした「ゴヤ」がスゴい

    上野のゴヤ展の予習として読んだらぶッ飛んだ。 庶民出身の、サラリーマン絵師だったゴヤが、どうやって伝説へ大化けしたかをつぶさにたどると、近代革命史あり、宮廷の権謀術数あり、どん底からの這い上がりど根性物語あり、なんでもありのスゴい伝記と相成る。ゴヤの作品と生涯をタテ軸に、同時代のスペインとヨーロッパの激動をヨコ軸に読み進めると、「ゴヤ」という名の人間ではなく、これらの化学反応により生み出された怪物のごとく見えてくる。 わたしの悪いクセなのだが、一人の天才に焦点を当てると、その最高傑作だけに眼が奪われ、そこに至る紆余曲折や失敗プロセスの一切を、無かったことにしてしまう。そして、その天才を神格化して崇め奉ってしまうのだ。同じ轍を踏んでる発言の感嘆符(!)を眺めると、連中の崇め奉りたい欲求にジワジワくる。 その天才は、そう呼ばれる前にやっつけ仕事もたくさんこなし、身過ぎ世過ぎしてきたはず。意に沿

    大化けした「ゴヤ」がスゴい
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/11/02
  • おいしいをデザインする「建築とマカロニ」

    デザイン心を刺激する、ユニークな。 どの辺がユニークかというと、ずばりテーマ。日を代表する建築家たちに、マカロニをデザインしてもらったデザイン集なのだ。スゴオフ@のフィードバックで教わったとき、わたしも「マカロニって、あの"べる"パスタの?」と半信半疑だった(mats3003さん、ありがとうございます)。 でも、あの"べる"マカロニだった。小麦粉を練って成形しただけの"あの"マカロニを、建築家の創造性を委ねる「構造物」としてとらえなおし、物としての味わいを機能的に追求してもらう―――そんなプロジェクトなのだ。 マカロニといえば、円筒形のやつから、ペンネ、蝶のような形や、貝殻のようなものまで様々。バリエーションは多々あるが、基的に「ソースやスープの乗り物」といっていい。しかし、体積に対する表面積の比率や、溝の入り方、厚み、大きさなどの条件によって、味わいは大きく変わってくるも

    おいしいをデザインする「建築とマカロニ」
    RanTairyu
    RanTairyu 2011/10/28