皆さんの家には「執事」は、いらっしゃいますでしょうか。私の家にはおりません。執事というと、時代ものの映画や小説のなかでしか、私は見たことがないのですが、そんな物語のなかの執事でも特に印象的なのが、ロシアの小説家・トルストイの作品『アンナ・カレーニナ』に登場する、主人公の兄、オブロンスキーの執事であるマトヴェイです。オブロンスキーは公爵で政府の高官でもあるので、モスクワに豪奢な邸宅を構えています。執事を雇っているだけでなく、毎朝お抱えの理髪師に自宅の化粧室でひげを剃らせたりもしています。 物語はそんなひげ剃りのシーンで幕を開けます。マトヴェイは椅子に腰掛けた主人の二、三歩後ろ、鏡越しに顔を合わせることができる位置に起立しています。それゆえオブロンスキーは、彼に話しかけるのに顔を上げたり首をひねったりする必要はなく、例えば妹が旦那を伴わず一人で来訪することを伝える際は、ただ指を一本立てれば良く