近年、更年期を、閉経以降の女性ホルモン“欠乏”と関連づけられている西洋医学的概念「メノポーズ」と基本的に同一視し、医療化する趨勢が強まっている。著者は、医療化が始まる直前の80年代に、当時更年期に該当していた日本女性を対象として医療人類学的調査をおこなった。そこでは意外にも、北米で言うメノポーズと日本の更年期との間に、身体症状の明白な違いがあることが示された。著者は〈語り〉の分析をとおして、「メノポーズ=更年期」という図式や、「暇人の病」など、更年期に絡みつく神話をねばり強く解体してゆく。 本書がとりあげている“昭和一桁”世代の女性の語りから浮かび上がるのは、混乱期に生まれ、世界観の激変の中をひたむきに生きてきた女性たちの個人史、そしてあくまでその個人史と結びついた「更年期」の自覚症状の出現である。著者は「異常とされるのは更年期自体ではない。……更年期は圧倒的に社会的なカテゴリーなのである