「なにも異常はありませんね、たいへんきれいです」 「そうなのですか」 俺は清潔な耳鼻科の診察室で、機械仕掛けで回転する椅子に座っていた。医者が俺の左の耳の穴をなにかの器具を使って覗き込んでいた。椅子が機械仕掛けで回転すると、今度は左の耳の穴を覗き込まれた。 「こちらも問題ありません」 ……そんな馬鹿な。 ……ぶつぶつ言うのだ。俺の左耳で、俺の左耳が。気になり始めたのは先週だった。左耳がぶつぶつ、ぶつぶつ言う。わかるだろうか、ぶつぶつと言うのだ。 これでは説明にならない。耳の中に異物感があり、耳の中でぶつぶつ音がする。ぷつぷつといってもよい。耳の穴の中に異音がする。始終鳴り続けているわけではない。たまに鳴る。仕事中によく鳴る。いくら綿棒で取り去ろうとしても治らない。 きっと、異物を耳の奥、綿棒の届かぬところに押し込んでしまったのだ。俺はそう思った。そう確信した。それを、耳鼻科で除去せねばなら
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