kanaan(カナーン)の厨房に立つイスラエル人のオズ・ベンダビドさん(左)と、パレスチナ人のジャリール・ダビトさん=Kanaan提供

北京のショールームで2018年5月10日、顔認識ソフトを使った映像がモニターに映し出された=Gilles Sabrié/©The New York Times
未曽有の犠牲者を出した東日本大震災。被災者の悲嘆と再生を長期にわたり取材した外国人ジャーナリストは、日本人のレジリエンスをどう見たのか。日本在住20年以上の英国人記者リチャード・ロイド・パリーさん(51)に聞いた。(聞き手・構成 渡辺志帆) ――2017年に「津波の霊たち」の英語版を出版しました。東日本大震災を主題に本を書こうと思ったのはなぜですか。 震災が起きた時、私は日刊紙の記者として3月13日朝には宮城県に入り、現場から様々な記事を書きました。ただ当初から、このような巨大で複雑な災害は1本の記事や、長い特集記事であっても書ききることは不可能で、書籍が向いていると感じていました。書籍でもすべてを書くことはできません。ですから、巨大な災害を象徴するような一つの物語を取り上げて、その詳細を書こうと思いました。しばらくたって石巻市立大川小学校の悲劇を知りました。一つの場所であまりに多くの子ど
私が加工度の高いファストフードをどう思っているか、みなさんすでによくご存じかもしれない。特に、アメリカの食の巨大複合企業によって地球規模で製造されているハンバーガー、ピザ、フライドチキン、冷凍即席ミール、あの緑と黄色のロゴのカウンター式サンドイッチチェーン。これらは私たちの食のシステム、教育、健康、環境、文化などあらゆる面にとって問題となる。脂肪、糖分、炭水化物を巧みに合成した安い工業用部品(私は「原材料」、まして「食べ物」などと呼んで威厳を持たせたりしたくない)をところかまわず複製・構築しながら、世界中でその土地固有の食文化や農業、そして人々の健康を破壊しているのだから。 だからこれから言おうとしていることは、どこかこう、矛盾して見えるかもしれない。しかしながら告白しようと思う。私は先日、世界で最も有名なハンバーガーチェーン二つのうち一つでハンバーガーを購入、摂取した。パティを「直火焼き
色づき始めた秋の森を抜け、波静かな入り江を渡り、スウェーデンの首都ストックホルムの中心部から郊外電車で30分ほど走ると、コンクリートの団地群が姿を現した。低所得の労働者が暮らす街ボートシルカだ。人口の約55%はシリア、アフガニスタン、インドなどからの移民やその子どもたちで、国籍は160にも及ぶという。 8月、ここで深夜に犬を散歩させていた12歳の少女が射殺され、社会を揺るがした。近くでは毎晩、武装した移民系若者らによると見られる発砲音が響いており、流れ弾を受けたと考えられた。一帯の治安は数年前から悪化し、「行けない地域」(no-go zone)と呼ばれていた。 コンクリートの団地が並ぶボートシルカの街並み この事件にとりわけ衝撃を受けたのは、ボートシルカで住民の交流の場となってきた「多文化センター」だった。問題を深刻に受け止めたスタッフのミカエル・モールベリさん(56)は、移民の代表者とと
投票日から4日経ってようやく勝者が決まるという前例のない大接戦となった米大統領選。ジョー・バイデン前副大統領は7日夜(日本時間8日朝)勝利宣言をして、「分断ではなく団結を」と呼びかけた。しかしアメリカ社会の亀裂がいかに深いか、ニューヨークでCNNとFOXニュースを交互に見続けたら分断社会の深刻さがはっきり見えた。この異例の大統領選で、トランプ大統領以上にヒートアップしていたのがメディアだった。(山本大輔) ■同じスピーチ、まるで異なる扱い 米国東部時間11月6日午後11時前、民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領が、国民向けのスピーチに臨んだ。連日続く開票作業で僅差の大接戦が繰り広げられる中、バイデン氏の優位が決定的になった日だった。ただ、米メディア各社は当選確実を報じることになかなか踏み込めなかった。当確報道自体が政治問題になりかねないほど、共和党候補の現職ドナルド・トランプ大統領
11月の米大統領選が近づく中、トランプ大統領関連の暴露本が次々と出版されている。本書は大統領のめいが一族の歴史をつづった回想録。親族による出版差し止め訴訟も話題を呼び、発刊初日に約100万部を売り上げた。 一家の家風が詳しく語られ、ドナルド・トランプという「怪物」を生み出した元凶は、支配的な父フレッド・トランプの教育方針にあったと指摘する。著者の祖父にあたるフレッドは、ニューヨークの不動産開発業で巨額の富を築いた。子どもは3男2女の5人で、次男がトランプ大統領。著者は長男フレディの娘だ。 世の中は勝つか負けるかのゼロサムゲーム。権力を持つ者だけが、物事の善悪を決める。うそをつくことは悪ではなく「生き方」の一つ。謝罪や心の弱さを見せることは負け犬のすることだ――。トランプ家の子どもたちはこう教えられ育った。親の愛情は条件付きで、フレッドの意に沿わないと残酷な仕打ちを受けた。 ドナルドは、幼い
7月中旬、旧ソ連の一角で起きた小規模な軍事衝突に、アメリカ、EUなど世界が一斉に反応した。その背景を見ていくと、エネルギー資源を巡る各国のパワーゲームと思惑が浮かんでくる。実は日本も「遠い世界の話」と無関心ではいられないこの「コーカサス地域」の今を、関係する各国に焦点を当てながら考えてみたい。 7月に衝突を起こしたのは、コーカサス地域にある国、アゼルバイジャンとアルメニアだ。軍同士が国境の街で衝突、その後も断続的に双方の攻撃が続き、少なくとも20人の犠牲者が出たとされている。きっかけは明らかになっておらず、お互いが相手側から先に攻撃して来たと主張している。 アゼルバイジャンの中には、アルメニア人が多数派を占める「ナゴルノ・カラバフ自治州」という地域があり、彼らが1980年代後半にアルメニアへの併合を求め武装闘争を開始した。やがて起きた両国間の軍事衝突はソ連崩壊後には全面戦争に発展、約3万人
ホワイトハウス周辺で抗議運動する男性。フロイドさんの事件を受け、連日ホワイトハウス周辺で抗議デモが行われた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2020年6月6日 今から20数年前、私が米国に移住し間もない時のこと。通勤中、誤って右折車線から直進すると、突然けたたましいサイレンが鳴り、赤と青の激しい光を放つパトカーが背後についた。免許を渡すと、警官は身元確認のためパトカーに戻り、そのまま15分が経過した。仕事に遅刻すると焦った私は車を降りてパトカーへ行き、「まだですか?」と窓越しに尋ねる。すると警官は血相を変え、「車内へ戻れ!」と大声で叫んだ。過剰反応に見えるこの対応が理解できず、滑稽にさえ思えた。その夜、友人らに朝の出来事を話すと、皆口を揃えてこう言った。「撃たれなくてよかった」。そのうち一人は「あなたが黒人男性だったら、今もうここにいないはずだ」と続けた。背筋がぞっとした。 ホワイトハウスの
日本全土が新型コロナウイルスの対応に追われている中、いち早くウイルスの封じ込めをしている中国は空母艦隊を西太平洋に派遣するなど、海洋活動を活発化させている。さらに中国は米国がこれまで持てなかった中距離ミサイルの開発を着々と進め、日本は中国の見えないミサイルの脅威にさらされている。 この劣勢に、日米はどう対処するべきなのか。米国の保守系シンクタンク「ハドソン研究所」研究員の村野将氏に、今後の日本の対策を尋ねた。同研究所に新設された日本研究部の唯一の日本人研究員として、抑止戦略や日米の安全保障協力についての研究を担当している。村野氏が強調したのは、「日本における議論の不足」だった。(朝日新聞編集委員・峯村健司) ――中国軍は日本全土を射程に収める中距離ミサイルを2千発ほど持つと言われています。一方の米国は昨年8月まで、ロシアと締結していた「中距離核戦力(INF)全廃条約」によって射程500~5
日本では、とりわけ東京と大阪において人々のヴィーガン主義(卵も肉も魚も乳製品も食べない菜食主義)が進み、ヴィーガン対応のレストランやカフェも増えていると聞く。他の国や地域でも今最も勢いのある食のトレンド、ヴィーガン主義は、日本でも主流になりつつあるようだ。10年前にはベジタリアン主義もそうだった。その背景には、倫理面や環境面、健康面において、もっともな理由がある。 牛肉の生産は特に環境への負担が大きい。土地、水、飼料など大量の自然資源を要し、大量の温室効果ガスを生むのだ。赤身肉の食べすぎがよくないというのも知られた話だし、動物を殺すなんて間違っているとの主張に対しては適切な回答を持ち合わせていない。せいぜい「人類は古来ずっと肉を食べてきた」、あとは「とにかくおいしい」くらいだ(何の弁護にもならないが……)。 私自身も、家族とともに肉の消費量を減らしてはいる。でも牛や鶏、羊に豚、いかなるジビ
日本でCMや広告が差別的だと話題になり炎上することがしばしばあります。そのたびに、「日本では、企業側のジェンダーの平等に関する意識がまだまだ低い」などの批判の声が挙がります。でも企業がときに差別問題に疎いのは何も日本に限った話ではなく、海外の企業でもそういった問題は見られます。今回は、ドイツのDIY企業「HORNBACH AG」がアジア女性を差別的に描く動画を流し問題になっています。「白人」それも「一部の白人男性」の視点しか取り入れず、東洋人女性を明らかに見下した内容の動画を流したことで、ドイツでも本当の意味での多様性への道のりはまだまだ遠いことがわかります。 問題となったのは、以下のオリジナル動画です。 登場するのは庭仕事で汗をかいている5人の白人男性です。庭仕事の後、彼らの汚れた下着は真空パックされます。日本人とも思われる女性(動画ではわずかですが、「春の匂い」と「日本語」が映りこんで
最近出版されたのは、アルゼンチン出身の政治学者、エルネスト・ラクラウ(1935~2014)の代表作「ポピュリズムの理性」(澤里岳史、河村一郎訳、山本圭解説、明石書店)と、ベルギー出身の政治学者でラクラウの公私にわたるパートナーでもあったシャンタル・ムフ(75)の「左派ポピュリズムのために」(山本圭、塩田潤訳、同)。これまで「大衆迎合主義」と訳されて批判されがちだったポピュリズムに新たな可能性を見いだし、積極的に政治に取り入れようとする姿勢が、両書に共通する。両書にかかわった山本氏は、ラクラウ/ムフ思想の研究者として知られる。 左派ポピュリズムは果たして、右派ポピュリズムと同じく混乱の要因なのか。それとも、政治に新たな可能性を切り開くのか。 ――今なぜ、この2人が注目を集めるのでしょうか。 エルネスト・ラクラウとシャンタル・ムフは、左派ポピュリズム運動から理論的支柱と見なされています。南米で
中国国境のボーテンと首都ビエンチャンを結ぶ鉄道(約410キロ)のトンネル。全線で75もの数が掘られている=2019年2月22日、ラオス・ルアンプラバン郊外、吉岡桂子撮影
Photo: Nishida Hiroki アンゲラ・メルケルは2005年以来ドイツ首相を務めている。9月24日に連邦議会選挙があるが、いっこうに盛り上がらないのは、彼女が勝つに決まっているからだ。経済紙記者のフィリップ・プリッケルトがまとめた『Merkel(メルケル)』では、彼女と同じ保守党に近い22人の学者や文筆家が12年間のこれまでの政治を批判・総括。彼女の政治スタイルについての寄稿は面白い。 メルケル首相は物理学者だったことから冷静で分析的で「結末から考える」人だと思われている。まずは望ましい「結果」を想定し、そこから遡ってその時々に適切な決断を下すということだが、本当のメルケルはその正反対という。 一度は前政権が歩んでいた脱原発の道から逸脱して稼働期間を延長したが、その直後に日本で原発事故があると、脱原発に回帰した。ユーロ危機でも共通通貨導入時の本来の姿に戻そうとするのか、新しい
今年に入り、記録をめぐる政治家や官僚の振る舞いが注目を集めた。加計学園の学部新設問題では省庁の内部文書が当初「怪文書」呼ばわりされ、陸上自衛隊の南スーダン日報には隠蔽(いんぺい)疑惑が持ち上がった。示された文書が「記憶にない」の一言で片付けられた場面もあった。記録ってそんなに軽いものだっただろうか。記録を残して公開することは民主主義にとって大切なことではなかったか。欧州や米国の公文書館などを訪ねて記録の番人たちに会うことにした。記録の意味、記録の力、記録の危うさ。深く考えさせられる旅になった。 Archic World Archiveの扉 photo:Tahakashi Yukari 気温は零下5度。北極圏バレンツ海を望むノルウェー領スバールバル諸島最大の島、スピッツベルゲンの山中にある炭鉱跡は、7月半ばでも凍える寒さだった。極北の地を訪ねようと思ったのは、今年、この廃坑が世界の貴重な記録
[Part1] 官僚制は戦前から戦後へ 改革は、蛇行した 「政」と「官」との関係をめぐる試行錯誤は、今に始まったわけではない。歴史をたどってみよう。 「官僚主導の起源をさかのぼると、明治国家の生い立ちにたどりつく」と話すのは、慶応大専任講師の清水唯一朗だ。 700年に及ぶ武家専制から近代化の道へと乗りだした明治政府の実務を担ったのは、伊藤博文ら西洋の学問に通じた新知識人だった。 伊藤は海外視察から戻るとすぐに内閣や省庁、官僚制度を整備した。国会が開設されるのはそれから4年後の1890年だから、この時点で、すでに「官僚主導」は始まっていたといえる。 第44帝国議会の貴族院議長席。右から加藤高明子爵、徳川家達議長、河合書記官長。大臣席は原敬首相、内田康哉外相。 政治家と官僚が未分化だった藩閥政治から本格的な政党政治へと統治の形が変わると、官僚機構は、政党を支える組織として機能し始める。初期の官
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