◇「津波リスク、交通事故死以上」 「寝た子起こすな」 「津波の評価を行う際、想定外を考慮することが重要」との書き出しで始まる英文の報告がある。東京電力の原子力部門の技術者らが、06年7月に米国であった原子力工学の国際会議で発表した内容で全7ページ。福島第1原発の津波リスクが試算され、結果を示す図には、想定外の津波に襲われる確率が年5000分の1程度であることを示す曲線が描かれていた。日常生活に当てはめると、交通事故で死亡するリスク(年1万分の1程度)より高い確率だ。 原発のリスク評価が専門の平野光将・東京都市大特任教授は「想定をわずかに上回る津波でも、(最終的に原子炉の熱を除去する)海水系が壊れれば、シビアアクシデント(過酷事故)に至る可能性がある。対策をしなかったのは、安全文化の欠如によるサボタージュではないか。これでは『想定外』の事故とはいえない」と指摘する。 技術者たちは、明治三陸地
世界の地震の2割が集中する「地震大国」でありながら、54基もの商業用原発が建ち並ぶこの国。原発は安全性に十分配慮して建設され、しかも国が厳重に審査しているとされてきたが、東京電力福島第1原発事故で「安全神話」は完全に地に落ちた。原発の安全審査はどのように進められ、なぜ大地震の恐れがある地域でも建設が認められてきたのか。国の審査の仕組みや問題点をまとめた。 ◇候補地 立地審査前に決定 ひとたび大事故を起こせば、取り返しのつかない深刻な被害を招くのに、福島第1原発が建設されたのは10メートルを超える巨大津波が襲う場所だった。中部電力浜岡原発は、マグニチュード(M)8クラスの東海地震の想定震源域の真上にある。四国電力伊方原発の近くにも、M8クラスの巨大地震が懸念される中央構造線の断層帯が走る。原発はなぜ、大地震や津波など危険な災害に見舞われるような場所に建設されてきたのか。 国の原子炉立地審査指
東京電力は12日、福島第1原発3号機西側のトレンチ(トンネル)で、約300立方メートルの放射性汚染水が見つかったと発表した。東電によると、放射性セシウムの濃度は1立方センチ当たり約100ベクレルで、海洋への流出はないとみている。汚染水は昨年12月下旬に別のトレンチで約220立方メートル見つかり、周辺のトレンチも調査を実施。2月中旬ごろまで継続する。
内閣府原子力災害対策本部と福島県二本松市は15日、同市内の鉄筋コンクリート3階建て新築マンションの1階屋内部分から、屋外より高い最大毎時1・24マイクロシーベルトの放射線量が検出され、1階住民に転居を勧めていると発表した。同本部などは、東京電力福島第1原発事故当時、同県浪江町の採石場に保管されていた石を使ったコンクリートが発生源とみている。建築資材の砕石は放射線量による出荷制限はなく、他にも汚染された建材が流通した可能性があるとみて調査を始めた。 市などによると、マンションは同市若宮地区にあり、昨年7月完成、12世帯が居住している。1階に住む女子中学生が個人線量計で測定した累積被ばく線量が高いことが12月に判明。調査したところ、放射線量は屋外では毎時0・7~1・0マイクロシーベルトのところ、1階は0・90~1・24マイクロシーベルト、2~3階は0・10~0・38マイクロシーベルトだった。同
◇通常の数倍~数十倍 「土ぼこり」影響か 県が毎日発表している雨や雪などの降下物に含まれる放射性セシウムについて、2~3日の福島市の測定値が、通常の数倍~数十倍に当たる1平方キロ当たり432メガベクレルに急上昇した。 測定値は、3日前が同69メガベクレル、前々日が同14メガベクレル、前日が検出限界値未満で推移。このため、政府の現地対策本部に「1日の地震で福島第1原発に何かあったのか」などの問い合わせが相次いだ。7日までの問い合わせが51件あり、1週間の問い合わせ電話の2割強を占めた。 しかし、原発の異常は報告されず、大気中の放射線量にも変化はなかった。県は「当日の風向きも福島市とは逆方向で、原発との関連は薄い」と判断した。 結局、確たる原因は不明だが、計測する雨水をためる容器に砂が通常より多く混じっていた。“犯人”について、県は「強風で放射性物質を含んだ土ぼこりが舞い上がったため」と推定し
◇年換算1.04ミリシーベルト 妊婦や子どもを対象に福島市が実施した放射線被ばく量の3カ月間の測定結果が12日、発表された。3カ月の累積線量の平均値は0・26ミリシーベルトで年換算では約1・04ミリシーベルトとなり、国が定める平時の一般人の被ばく上限1ミリシーベルトを上回った。 市内の妊婦と0歳~中学生の対象者4万6303人のうち、希望した3万6767人が9~11月、個人線量計を24時間携帯して測定。 調査の結果、最も高かったのは、2・7(累積線量10・8)ミリシーベルトで3人。市放射線健康管理室は本人に聞き取りし、「屋外に置き忘れなどが原因ではないか」としている。このほか、0・2(累積線量0・8)ミリシーベルト以下は、1万9116人(52%)、0・3(同1・2)ミリシーベルト以上は、1万7651人(48%)。 平時の上限を約半数が上回ったことに対し、県立医大の宍戸文男教授らでつくる市健康
東京電力福島第1原発で進行中の危機に、私は既視感を覚えている。経済成長を追い求め、産業の利益を最優先する国策の下で、その意思を代弁する学者の意見だけに政治が耳を傾け続けた結果、この国は取り返しのつかない被害を何度も生じさせてきたからだ。その連鎖を止めない限り、再び悲劇が起きるだろう。 日本原子力学会の元会長や原子力安全委員会の元委員など原子力を先頭に立って推進した学者16人が連名で3月末、「緊急建言」をまとめた。4月1日に行った会見で彼らは、福島の原子炉内に蓄えられている放射性物質の量はチェルノブイリをはるかに上回ることを指摘し、たとえ危機を脱しても極めて長い歳月、厳重な管理を続ける必要があると語った。反原発側ではなく、推進側の学者がようやく、現状の深刻さを認めた。 ◇14年前の警告 班目氏らは無視 今回のような大地震・大津波による原発事故を、地震学者の石橋克彦・神戸大名誉教授が「原発震災
発電しながら核燃料のプルトニウムを増殖させる原子力発電所「高速増殖炉」が、岐路に立っている。脱原発の世論が高まる中、高速増殖炉の研究開発に莫大な資金を投じることに疑問が広がっている。高速増殖炉に反対し続けてきた元京都大原子炉実験所講師、小林圭二さん(72)に問題点を聞いた。【和泉かよ子】 ◇専門家指摘「監視が必要」 電力会社が運営する原発の「軽水炉」は、核燃料を消費するだけで増殖はしない。高速増殖炉はプルトニウムを生産する機能を優先しているために、軽水炉より危険性が高い構造だという。小林さんは「高速増殖炉と軽水炉はまったく別のものと考えた方がいい」とクギを刺す。 現在、日本の高速増殖炉開発の最前線は、独立行政法人「日本原子力研究開発機構」の「もんじゅ」(福井県敦賀市)だ。まだ「原型炉」という研究段階の炉で、出力は28万キロワットしかないが、それでもさまざまな危険があるという。危険性を大きく
特集ワイド:被爆医師は今も闘う 死ぬほどだるいと訴える全身衰弱「ぶらぶら病」、福島で出ても不思議はない ◇私のどこが悪いんだ、開き直りがずっと根底にあるんですよ 放射性物質が広範囲にまき散らされた東京電力福島第1原発事故。内部被ばくの健康影響が懸念されるなか、広島・長崎の原爆ではどうだったのかにも関心が高まっている。広島で被爆した医師で、「原爆ぶらぶら病」の患者ら6000人以上の被爆者を診察してきた肥田舜太郎さん(95)を訪ねた。【宍戸護】 「内部被ばくは広島・長崎の時からあったのです」。昨年12月、横浜市港北区のホール。「福島第1原発事故と内部被曝(ひばく)について」と題した講演会で、肥田さんはよく通る声でこう話した。「原爆(ピカドン)が落ちた日には広島・長崎におらず、数日後に家族を捜しに入った人たちが、理解できない形で死んでいった」。普段つえをついて歩く肥田さん。約2時間も机の前に立ち
原発関連施設の唯一の法定検査機関で独立行政法人の「原子力安全基盤機構」が、検査対象の事業者の作成した原案を丸写しした検査手順書(要領書)を基に検査している問題で、機構の第三者委員会(委員長・柏木俊彦大宮法科大学院大学長)が、同様の手法が機構発足当初(03年10月)から常態化しているとする調査結果をまとめたことが分かった。第三者委は「信頼に疑念を抱かせる。事業者への依存体質が原因で主体的検査に改善すべきだ」とする報告書を12日、機構に提出する。 ◇報告書「理解と意識希薄」 問題は昨年11月、毎日新聞の報道で発覚した。機構側はこれまで「問題ない」との立場だったが大幅な見直しを迫られる。 学者ら5人で構成する第三者委が検査員への聞き取り調査などを実施。その結果、原発の核燃料を製造・加工する「グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン」(神奈川県横須賀市)に要領書の原案を作成させ、表紙などを差し
福島県は7日、いわき市で栽培されていたユズ1個から国の暫定規制値(1キログラム当たり500ベクレル)を超える930ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。県によると、出荷前に調査され、市場には流通していない。県はいわき市に出荷自粛を要請した。 県内では昨年8月に福島市と南相馬市、12月に伊達市と桑折町が産地のユズから規制値を超えるセシウムが検出された。4市町には引き続き出荷自粛を要請している。
「年20ミリシーベルト程度の被ばくによる健康影響は低い」。東京電力福島第1原発事故で飛散した放射性物質について、政府のワーキンググループ(WG、共同主査・長滝重信長崎大名誉教授、前川和彦東京大名誉教授)が昨年12月に公表した結論だ。だが私は今回、避難や帰宅にかかわる重要な数値が専門家の間だけで決まり、住民に質問などの機会がまったくなかったことに驚く。結論を出した専門家たちと住民との間には「不信」という深い溝がある。 ◇結論ありきでは不安解消されず WGは、警戒区域と計画的避難区域の再編をにらみ政府が設置。約1カ月間に8回の議論が行われた。だが、その結論には、住民にとって多くの疑問が残る。 第一に「年20ミリシーベルトでも健康影響は低い」という判断だ。環境省は昨年10月「被ばく総量年1ミリシーベルト」を目標に、除染に取り組む方針を明らかにした。この差は何なのか。一方、原子力関連施設では3カ月
東証1部上場の半導体大手エルピーダメモリ(東京都中央区)を巡る経済産業省幹部のインサイダー取引疑惑で、東京地検特捜部は12日、未公表情報を基に不正な株取引をしたとして、資源エネルギー庁前次長、木村雅昭容疑者(53)を金融商品取引法違反容疑で逮捕した。 捜査関係者などによると、木村前次長は商務情報政策局担当の審議官だった09年、エ社に公的資金を投入する政府の救済計画に携わっていたが、この過程で内部情報を得ながら妻名義の口座で複数回、エ社株を購入したなどの疑いがもたれている。 証券取引等監視委員会が昨年6月、告発を視野に強制調査。その後、特捜部が同省関係者らの事情聴取を進めていた。 木村前次長は81年入省。07年から約2年間審議官を務めた後、10年7月に資源エネルギー庁次長に就任した。強制調査後の昨年6月に「健康上の理由」で同省官房付に異動し、事実上更迭された。
環境省は26日、東京電力福島第1原発事故後に設定された福島県内の緊急時避難準備区域(9月末に解除)にある飲用の井戸水中の放射性セシウムの濃度を調べ、南相馬市の4カ所で少量を検出したと発表した。最大で水1リットル(キロ)当たり14.7ベクレルで、厚生労働省の暫定規制値(1キロ当たり200ベクレル)以下だが、来年4月施行を目指す新基準値(同10ベクレル)を3カ所で上回った。 調査は同市と広野町、楢葉町の1317カ所で10、11月に行い、同区域の他の自治体などは継続中。南相馬市原町区北長野の2カ所と同区北原の1カ所で、1リットル当たり11.4~14.7ベクレル、同区萱浜で1.3ベクレルを検出した。検出下限値は5ベクレルで、他の井戸は不検出だった。環境省によるとセシウムが付いた付近の土が混ざった可能性があるという。井戸は個人所有で、結果を知らせており、多くの人が飲む恐れはほぼない。【野田武】
東京電力は29日、福島第1原発1号機のタービン建屋で91年10月30日に原子炉の冷却用海水が配管から漏れ、地下1階にある非常用電源の部屋が浸水していたことを明らかにした。電源機能は維持されたが、原子炉は同日、停止した。当時から浸水の危険性があったにもかかわらず抜本対策は取られてこなかったことになる。 東電によると、配管は建屋床下の地下にあり、原子炉の熱を海水を通して逃がす役割を担っている。ところが、配管が腐食し中の海水が毎時20立方メートルで漏れた。海水は、扉やケーブルの貫通口などから非常用電源のある部屋にも浸水。2台のうち1台の電源の基礎部分まで冠水したが、駆動機構は無事だったという。 東日本大震災では、津波が地上にある開口部から浸水し非常用電源や配電盤が使えなくなった。原子炉の冷却が困難となり、炉心溶融を招く一因となった。【岡田英】
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く