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ブックマーク / dictionary.sanseido-publ.co.jp (260)

  • 第82回 「鉄」と「鐵」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム

    大日帝国陸軍が昭和15年2月29日に通牒した兵器名称用制限漢字表は、兵器の名に使える漢字を1235字に制限したものでした。陸軍では、おおむね尋常小学校4年生までに習う漢字959字を一級漢字とし、これに兵器用の二級漢字276字を加えて、合計1235字を兵器の名に使える漢字として定めたのです。この一級漢字の中に、新字の「鉄」が含まれていました。旧字の「鐵」では書くのに時間がかかることから、新字の「鉄」を兵器の名に使い、旧字の「鐵」は使わないこととされたのです。 一方、国語審議会は昭和17年6月17日、標準漢字表を文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、常用漢字1134字、準常用漢字1320字、特別漢字74字、の合計2528字を収録していました。この常用漢字の中に、新字の「鉄」が含まれていました。「鉄」の直後には、カッコ書きで「鐵」が添えら

    第82回 「鉄」と「鐵」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム
  • 第84回 尾張の「杁」 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    名古屋郊外の大学校舎に向かう。リニアモーターカーは、子供の頃から、夢のまた夢だったが、何年も前にこの地で実現していた。新しい物好きではない私にはちょうどよい、またそれしかない交通手段だ。丘陵地を見晴らせるそれに乗り込む。 講義の前の短い間だが、途中下車したのが、「杁ヶ池公園」駅である。初めの3字は「いりがいけ」と読む。そこから、尾張の地域文字である「杁」を含む地名を探しながら歩くと、次第に目が覚めてきた。そこには当たり前のように、この地域文字が使われている【写真1】。 かつて江戸時代の初めに尾張では、「木偏」のこの字が用いられ始めている。一方、江戸幕府や他の藩では、同じ用水路や水門を意味する「いり」には土偏の「圦」という字を使っていた。「杁」は、それに先がけて現れた国字のようだ。「いり」という訓義をもつ「入」を旁に配した形声文字のようなやや珍しい構造となっている。尾張藩では、途中、幕府も公

    第84回 尾張の「杁」 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム
  • 第83回 漢字の音義の一人歩き | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    前々回に触れた、江戸時代の70画台の「字」は、恋川春町の『廓費字尽(さとのばかむらむだじづくし)』(天明3(1783)年刊)という戯作に登場する。かの蔦屋重三郎の手がけた黄表紙で、そこには79画とも数えられる形に「おういちざ」(おおいちざ)と読みが添えられている【図】。このの元となったものが『小野篁哥字尽』で、影響力も大きく、何種類もの亜種、中には目を疑うような語をも扱った異種までが派生した。 「今昔文字鏡」など、正方形にデザインするものがあったが、その実物は細長く、とても一字としてのまとまりを持たないもので、さらにその次に並ぶ「字」は、方形にまったく収まっていない。「おういちざ」とはむろん大一座のことであるが、『異体字研究資料集成』には文だけが影印されていたため、従来いろいろな意味が推測されてきた。 これは、原文の挿絵と、そこに記されている科白などまでを確認すれば、団体客のことを指

  • 第81回 「翆」と「翠」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム

    新字の「翆」と旧字の「翠」の関係は、かなり複雑です。羽の下に卆の「翆」、羽の下に卆の「翆」、羽の下に卒の「翠」、羽の下に卒の「翠」、の4種類がありうるからです。 これら4つのうち、子供の名づけに使えるのは、羽の下に卒の「翠」だけです。残りの3つは、現在は使えません。でも、過去には使えた時代もあったのです。 当用漢字1850字と人名用漢字92字では子供の名づけに足りない、という国民の声を受けて、法務省民事局は昭和50年7月、子供の名づけに使える漢字として追加すべきものを、全国の市区町村を対象に調査しました。さらに法務省民事局は、法務大臣の私的諮問機関として、人名用漢字問題懇談会を発足させ、人名用漢字に新たに28字を追加すべきだ、という結論を得ました(昭和51年5月25日)。この28字に、羽の下に卒の「翠」が含まれていたのです。そして昭和51年7月30日、この28字は、人名用漢字追加表として内

  • 108 耳の文化と目の文化(25)―正書法を乱すもの(1)― | クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―(『クラウン独和辞典第4版』編修委員 新田 春夫) | 三省堂 ことばのコラム

    これまで見てきたドイツ語正書法は現代ドイツ語を文字によって体系的に表そうとする規則の集まりである。その意味で、不統一があるにしても、規則と呼ぶことができる。しかし、これをさらに乱すもののひとつに歴史的綴りがある。ドイツ語に限らず、あらゆる言語は時代とともに絶えず変化するものであるから、発音も変化する。しかし、文字表記されたものは長い間、慣れ親しんでいるから、発音を表しているというよりは表語的なものと感じられ、それを変えるのはどうしても抵抗感が生じる。 例えば、[f]はfで表すのが普通だが、Vater「父親」、vier「4」、von「…の」、Frevel「不法行為」などの語ではvで表されている。これらは中世以来の書法を守っているのである。また、現代語のSchnee「雪」、schlafen「眠っている」、schmal「細い」などは中世語ではsnê, slâfen, smalであり、語頭のsは[

    108 耳の文化と目の文化(25)―正書法を乱すもの(1)― | クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―(『クラウン独和辞典第4版』編修委員 新田 春夫) | 三省堂 ことばのコラム
  • 第82回 幽霊文字からキョンシー文字へ? | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    昭和のある日、とある大手証券会社に大金を持って表れたその人物が、名刺に残していったと伝えられる。その字体は、【図2】のように印刷した資料もある。 当人は、その時に「たいと」と名乗ったそうだ。ただ、電話帳など他の姓のデータには見いだすことができず、当時は用いることが可能であった仮名(かめい)ではないかと推測される。 読み方は、「だいと」「おとど」として転載する名字や国字の辞書なども現れている。「おとど」とは、大臣を表す古語であろうか。伝聞が転化したものにしては、いささか差が大きい。 私は、タイという音を持つと、トウという音を持つという2つの漢字を並べて用いた、2字からなる仮名(かめい)だったのでは、と考えている。それが、情報として一人歩きをしていくなかで、1字として認識されるようになり、姓の辞書にも転載され、世界最大の画数を有する国字として、一部で知られるようになった、ということではなかろう

    第82回 幽霊文字からキョンシー文字へ? | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム
  • Sanseido Word-Wise Web [三省堂辞書サイト] » 人名用漢字の新字旧字:「媛」と「媛」

    2011年 1月 27日 木曜日 筆者: 安岡 孝一 第80回 「媛」と「媛」 新字の「媛」は、常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「媛」は、常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。つまり、新字の「媛」は出生届に書いてOKですが、旧字の「媛」はダメ。では、愛媛県はどうだったのでしょう。 昭和17年6月17日、国語審議会は標準漢字表を文部大臣に答申しました。標準漢字表は、各官庁および一般社会で使用する漢字の標準を示したもので、常用漢字1134字、準常用漢字1320字、特別漢字74字、の合計2528字を収録していました。この準常用漢字の中に、旧字の「媛」が収録されていました。ところが、昭和21年11月5日に国語審議会が答申した当用漢字表には、新字の「媛」も旧字の「媛」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日の戸籍法改正で、子供の名づけに使える漢字は

  • 第80回 64画の漢字による当て字 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    一般に関心をもたれがちなことなので、60画台の字について述べておこう。中国では、辞書に「龍」を4つ書く字【図1】と「興」を4つ書く字【図2】とがある。いずれも64画に達する印象に刻まれやすい字であるが、どこか様になっている。とくに「龍」は、1字だけでも字体、字音、字義にインパクトがあるようで、それが4つも重ねられた字は、「奥深い」漢字の世界の最多画数の座を飾るにふさわしく感じられるようだ。漢字の蘊奥を感じ取る素材として十分な存在となっているようだ。 前者【図1】は、テツ・テチという音読みで、多言、つまりよくしゃべる、おしゃべりというような意味で、かつては、かの『ギネスブック』にも掲載されていた。後者【図2】は、セイという音読みしか伝わっておらず、字義は「政」という字音がほのめかしているようだが、明確ではない。 前者は、中国の古い道教の書籍にそれらしい使用例を見たが、もとより文脈がとれるよう

  • 106 ドイツ語の地域差と独和辞典 | クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―(『クラウン独和辞典第4版』編修委員 飯嶋 一泰) | 三省堂 ことばのコラム

    語と同じようにドイツ語にもさまざまな方言がある。それらは大きく、北ドイツの低地ドイツ語、中部ドイツの中部ドイツ語、南ドイツ・オーストリア・スイスの上部ドイツ語に三分され、そこからさらに各地域の諸方言に枝分かれしていく。隣接する方言、たとえば南東ドイツのバイエルン方言と南西ドイツのシュヴァーベン方言は相応の類似性を示すが、北ドイツの話者とスイスの話者が各々の方言で理解しあうことはきわめて難しい。もちろん、今日では大部分の人々が標準語を話せるので、ドイツ人とスイス人の間で通訳が必要になることはないし、我々も教科書で習ったドイツ語で不自由なく旅行したり暮らしたりすることができる。 とはいえ、実際にドイツ語圏に赴いてみると、方言はともかく、各地で話される「標準語」(ないし標準語に準ずる日常語)にもかなりの相違があることが実感される。一番目立つのは発音で、たとえば語末の-ig [ıç]は、ドイツ

    106 ドイツ語の地域差と独和辞典 | クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―(『クラウン独和辞典第4版』編修委員 飯嶋 一泰) | 三省堂 ことばのコラム
  • 第79回 画数の多い漢字による表現 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    「最も画数の多い漢字は何か」。巷間、問われることの多い命題に関して考えてみよう。 実は『当て字・当て読み 漢字表現辞典』には、当て字に限定せず、漢字のこれはという表現を意識的に盛り込んでみた。漢字表現の広がりを押さえ、かつそこから当て字の位置を確かめるためであった。 その一つとして、画数の多い漢字を記録しておこうという方針があった。画数は、少ない方は1画と限りがある。スペースに何らかの読みを与えれば、0画の字(?)という表現もできないことはないが、マイナスになることは現実の文字にはない。 一方、画数が多い字はどうだろう。これは、漢字が開いた集合であるため、途方もないことになりかねない。思いつきのたぐいの遊びの造字はここでは別としよう。今度、「常用漢字表」に加わったことで注目を浴びた「」は、当て字(熟字訓の類を含む)にも使われてきた。中国の簡体字では、発音が等しい「郁」(yu4 イク)で代

  • 第79回 「逸」と「逸」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム

    新字の「逸」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「逸」は人名用漢字なので、やはり子供の名づけに使えます。つまり、新字の「逸」も、旧字の「逸」も、出生届に書いてOK。でも、旧字の「逸」には、実は微妙な歴史があるのです。 昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表には、旧字の「逸」が収録されていました。昭和23年1月1日の戸籍法改正で、子供の名づけに使える漢字は、この時点の当用漢字表1850字に制限されました。当用漢字表には、旧字の「逸」が収録されていたので、旧字の「逸」は子供の名づけに使ってよい漢字になりました。 昭和23年6月1日、国語審議会は当用漢字字体表を答申しました。当用漢字字体表では、旧字の「逸」に代えて、新字の「逸」が収録されていました。昭和24年4月28日に、この当用漢字字体表が内閣告示された結果、新字の「逸」が当用漢字となり、旧字の「逸」は当用漢字ではなくな

  • 第78回 三河の「圦」 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    秋の岡崎の地で、「いり」つまり用水路や水門が設けられているであろう池を求めて歩いていると、風邪のせいでフラついてきた。ちょうどタクシー会社の前にたどり着く。一旦は通り過ぎたが、誘惑に負けて扉を開き、タクシー無線を操る大きな男性に聞いてみた。「いり」が付く地名には、「「どうじょういり」がある」。パソコンを叩くと、画面には「入」。残念、土偏が付かない。 「なかがいり」「うさぎがいり」など、ほかも同様だった。しつこく、「何かあるのではないか」とい下がって画面を覗き込むと、地名が並んだ下の方に「宮ノ圦」が表示されていた。行き場所は決まった。そもそも、「見ないでね」と笑って言われる物がたくさん貼ってある事務所に、「どうぞ」と入れて、座らせてくれるような何やら醇朴で温かい風土を感じさせるところだ。 「いり」とは何かと尋ねると、「字(あざ)名は、当に分かりにくい」とその男性は知らないと言い、また年配

    第78回 三河の「圦」 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム
  • 第77回 三河土産―地域誤字? | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    作詞家の阿木燿子さんから、『当て字・当て読み 漢字表現辞典』へ推薦のおことば、それももったいないほど過分なおことばを頂く機会に恵まれた(//dictionary.sanseido-publ.co.jp/dicts/ja/ateji_ateyomi/subPage2.html)。 阿木さんが実際に手がけられた歌詞では、ことばや表記に対する繊細な感覚とこだわりの数々を、引用させて頂く際に十分に感得したが、実際にお会いしてお話をうかがうほどに心に染みていっそう納得できた。「炎と書いてジェラシー … ルビをふったらジェラシー」と山口百恵に歌わせたそのモチーフなど、プロの作詞家としてのお仕事のほんの一端を教えて頂くことができた。後日、ミュージシャンであり夫の宇崎竜堂さんもご一緒にお話しして下さり、作曲の秘密などを気さくにお示し頂いた。お二人とも、ことばや文字に対しても実に真摯に取り組まれていて、私に

    第77回 三河土産―地域誤字? | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム
  • 第76回 「爻」など「マジ」の最先端 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    「マジ」という語には、ついに「爻」という漢字まで当てられるようになった。この「コウ」と読み、易の卦(か)を構成する記号( と )を指し、交錯・まじわることを意味する字は、ケータイなどの変換候補で、初めて見るという者がほとんであろう。しかし、むしろ何だか分からないこの特徴あるシンプルな字こそ、それらしい形だと感じ取れるものとして、若者の一部に受け止められ、心をとららえたようだ。 ケータイメールではこれが実際にやりとりされ、さらにWEBにも送られたり、またWEB上で打ち込まれたりされるようになっている。これには、2003年の使用例も残っていた。情報機器の力が個人表記を位相表記へと押し上げる、そういう時代が到来しているのである。 「マジ」の漢字表記の試みは、この先も、よりしっくりくるニュアンスが求め続けられそうだ。「命(マジ ルビ)カノ」と広告で使われれば、「命(マジでヤバイ ルビ)」と手紙

  • 第78回 「斎」と「齋」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム

    新字の「斎」は常用漢字なので、子供の名づけに使えます。旧字の「齋」は常用漢字でも人名用漢字でもないので、子供の名づけに使えません。「斎」は出生届に書いてOKですが、「齋」はダメ。でも、新字の「斎」は、微妙に字体が揺れ続けているのです。 昭和17年6月17日に国語審議会が答申した標準漢字表2528字には、新字の「斎」が収録されていて、その直後にカッコ書きで「齋」が添えられていました。つまり「斎(齋)」となっていたわけです。国語審議会は、旧字の「齋」ではなく新字の「斎」を使うべきだ、と答申したのです。ただし、標準漢字表の「斎」は、「齐」の中に「示」を書く字体でした。 昭和21年11月16日に内閣告示された当用漢字表でも、「斎」の直後に「齋」がカッコ書きで添えられていて、「斎(齋)」となっていました。ところが、当用漢字表の「斎」の字体は、標準漢字表とは微妙に異なっていました。中にある「示」の横棒

  • 第75回 「馬路(マジ)」、そして… | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    関西のテレビ番組で、『当て字・当て読み 漢字表現辞典』からクイズ形式で、当て字の読み方を答えさせるコーナーが放送されたそうだ。後で見せてもらったところ、「気」に対しては「マジ」との答えが正解とされ、続けて「真剣」に対しては、漢字が得意と評されるタレントが「ガチ」と答えた。ところが、答えは「マジでした」と言われ、がっかりするというような場面があった。準備された解答を受け入れ、一問一答式を好むテレビらしさの感じられる一瞬であった。実際には、「真剣」で「ガチ」もWEBなどですでに現れている。 さて、パソコンやケータイで「まじ」を変換させると漢字表記として、「馬路」しか選べない機種が多いことは前回触れたとおりである。それらの機器を辞書のように意識する使い手によって、これが気などを意味するマジという語の一つの表記と解釈されたり認識されたりして使われることが若年層で広まりつつある。 「馬路」は、実

  • 第74回 「真剣(マジ)」、そして「馬路」へ | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    「マジ」という語に「真面」という漢字表記が用いられたという話(前回)で触れさせて頂いた、作詞家の阿木燿子さんから、先日上梓したささやかな『当て字・当て読み 漢字表現辞典』に対して、推薦のおことばを頂く機会に恵まれた。 数々のヒット曲を世に送られてきた阿木さんには、NHK番組での取材でお目に掛かる前から、画面に溢れる落ち着いた優雅な仕草と、気品ある美しい表情を陶然と拝していた。この辞典の苦しい編纂過程にあった酷暑の夏の日に、実際にお会いできた時には、さらに上品なお淑やかさと、時折お示しになるきっぱりとした厳しさが、さらに人を惹きつけるものであると知った(後に引退後の山口百恵によっても、同様の記述がなされていることに気付くことになる)。 その先駆的な「真面」や 「気」を経て生じた、前回から扱っている「マジ」に「真剣」を当てる表記は、1997年の歌詞に現れる例が古めである。それを歌ったKinK

  • 第77回 「碍」と「礙」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム

    昭和17年6月17日に国語審議会が答申した標準漢字表2528字には、新字の「碍」と旧字の「礙」の両方が含まれていました。新字の「碍」は準常用漢字、旧字の「礙」は特別漢字となっており、一般の生活には「碍」を用いるが、皇室典範や帝国憲法などには「礙」を用いることになっていました。ところが、昭和21年11月5日に国語審議会が答申した当用漢字表1850字には、「碍」も「礙」も含まれていませんでした。当用漢字表は、翌週11月16日に内閣告示されましたが、やはり「碍」も「礙」も収録されていませんでした。そして、昭和23年1月1日に戸籍法が改正された結果、「碍」も「礙」も子供の名づけに使えなくなってしまったのです。 平成21年11月10日、文化審議会国語分科会は「改定常用漢字表」に関する試案を発表しました。この試案は、常用漢字1945字に対し、5字を削除して196字を追加する案で、2136字を収録してい

    第77回 「碍」と「礙」 | 人名用漢字の新字旧字(安岡 孝一) | 三省堂 ことばのコラム
  • 第73回 「真剣(まじ)」の台頭、そして… | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    気」による当て字は、常用漢字表が改定された今日においても、発展を続けている。「気」に「ガチ」とルビを付け、手紙に書く女子も現れたという。「ガチ」自体は古くからあった相撲用語の「ガチンコ」つまり真剣勝負の略とされる語で、近年、テレビで芸能人たちなどから耳にする頻度が急に上がった語だ。先日も、移動中、都区内のマクドナルドで昼を済ませていた時に、男子中高生が「ガチで? あとはマジ、ヤバイぜ」などと会話で使っているのが耳に入った。「ガチ」には「真剣」や「真面目」も当てられることがあり、使い古されてきた「マジ」という語に取って代わるほどになってきた。 マジという語の威力が、使われ続け、広まっていく中で次第に弱まってきた結果のようだ。ただ、棲み分けもあるらしい。ある区内の小学6年生曰く:「ガチは気でって意味で、マジは当にって意味。漫画とかで、気と書いてマジっていうのは間違っている。意味か

  • 第72回 「本気と書いて…」 | 漢字の現在(笹原 宏之) | 三省堂 ことばのコラム

    さて、前回まで見てきた「気(マジ)」という当て字は、とあるフレーズを伴うことがある。ことにこの表記が浸透した若年層において顕著だ。学生たちに「気と書いて…?」と尋ねると、唱和するかのように「まじと読む」という声が決まって返ってくる。 先日開催された模擬講義でも、群馬県の中学2年生たちが元気よくそう答えてくれた。聞けば、たいてい漫画に書かれていたというほか、友達や誰かが話していたことから覚えたともいう。ゴロのよいこのフレーズを大学生たちからは漫画やアニメの「クレヨンしんちゃん」で見聞きしたという声も多く聞かれる。 若年層では、自己の決意を表す時などに使う「流行語」、また「決まり文句」「定説」であり、「当然」のものとなっているそうだ。「刷り込まれた」とも言う。前置きとも、漢字と意味は合っているとも評される。「気と書いてマジと読む」という表現を昔から使っていたので、「ずっと正しい使い方