第四章 母の生き方と娘―萩尾望都の作品から 次に、24年組の作家の中からもう一人、萩尾望都の母親像を見てゆく。 『トーマの心臓』(1974)は、萩尾望都の代表作といわれている。 転校生、エーリクの左手には指輪があり、彼はそれをママとの婚約指輪と答えている。 彼は全寮制の学校に入っても母親の手紙を待つが、母親の事故死の知らせを聞いてショックを受け、実家に帰って母の死を悲しむ。 実家から学校の岐路途中で、彼の左手の指輪が抜け、その後、彼は義父と同居することを決意するまでが描かれる。 この作品では、母親は子との仲が良かった母として描かれてはいるが、母との婚約指輪を身につけるという表現が、行き過ぎた密接さを表している。 母との強すぎる結びつきもまた問題であって、母と個対個の関係を築いた後での、「〈良い母親像の〉死」は自立のために有効である。 母の死が事故という設定とされているとしても、ここでの母の