・蓮實重彦/山内昌之 『われわれはどんな時代を生きているか』講談社 (1998/05) 本書は、フランス文学者であり映画批評家である東京大学学長(当時)と、同大学のイスラーム史を専門としながらもそれ以外の分野にも博学で知られる教授による、「往復書簡」ともいうべきものです。言及したい話題が豊富ですので、章の順を追って書いていきたいと思います。基本的に本書は話題がズレながら進んで生きますので、ついていくのは思いのほか大変です。 ■多文化主義の弱点としての「人種主義」■ 第一章で山内は、多文化主義がフランスの国民戦線のようなタイプのレイシズムに対抗できないことを、論じます。多文化主義では「差異」の尊重は、そのまま「差別」への許容にすり替えられる、と(注1)。「差異への権利」は、差別を助長する方向と、差別に反対する方向との両方に使われてしまう、というのです。 国民戦線の論法とは、【マイノリティの権