多くの人が「ザ・コーヴ」を批判する理由のひとつは、大がかりな盗撮によって、作品のクライマックスであるイルカ漁のシーンが撮られていることだ。 確かに僕も盗撮は好きではない。この手法を使ったことはほとんどない。でも盗撮は倫理的に絶対に許されないとするならば、僕のつくってきた作品もすべて、上映や放送などできなくなる。 『A』や『A2』を例に挙げれば、オウム信者を逮捕する警察官、あるいはオウム施設を取り囲むメディアや地域住民たちなどを、僕は被写体にした。街を撮るときには多くの人がフレームに映りこむ。現場にいた彼らすべてに僕は、これは映画の撮影であり、いずれスクリーンに上映される可能性があるなどと説明していない。許可も得ていない。そんなことは物理的に不可能だ。 その意味では(法的な定義はともかく)、ドキュメンタリーにおけるあらゆる映像表現は肖像権を侵害する可能性があり、盗撮的なニュアンスをアプ