韓国史・世界史と交差する、さまざまな人びとの歴史を書く伊東順子さんの連載第6話の後篇です。アメリカに渡ったコリアン・ファイター、マスター・リーの数奇な人生について。ぜひお読みください。 第6話前篇はこちらから↓ https://www.webchikuma.jp/articles/-/3513 10年間で70万人が移民した時代 「それにしても、どうしてマスターは気づかなかったのですか? 表紙に船員手帳と書いてあるのだから、見ればわかるでしょうに」 そう思うのが普通かもしれない。しかし、マスターは空港の入国審査官に指摘されるまで、「パスポート」と「船員旅券」の違いなど知らなかった。無理もない話だ。この時は彼にとって、生まれて初めての海外旅行だったのだ。 そもそも当時の韓国で、実際にパスポートを見たことのある人など皆無に近かった。韓国で海外旅行が自由化されたのは民主化後の1989年からであり、