熊谷 徹 在独ジャーナリスト NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。 この著者の記事を見る

非正規労働者の相対的貧困率は、若年男性(25~34歳)では23.3%と5人に1人であるのに対し、壮年男性(35歳~44歳)では3人に1人(31.5%)、配偶者のいない女性ではさらに増え、2人に1人(51.7%)に上ることがわかった――。 これは先日、独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った「壮年非正規労働者の仕事と生活に関する研究」で明らかになったことである。 就職氷河期に、学校を卒業した人たちが40歳前後となった。40になれば、親も高齢になり、若い世代とは、違う問題があるに違いない――。そんなリサーチクエスチョンのもと、「ミドルの非正規社員」にスポットを当てた調査を、労研が実施したのだ。 「今はまだ、母の面倒を見なきゃならないんで、なんとかなってますけど。自分1人になったら……ヤバいなぁって思うんです」 昨年夏、元女性歌手の転落死に関する報道が問題になったとき、非正規で働く40代の男性
日経ビジネスは5月19日号の特集「さらば使い捨て経営~『正社員化』だけでは解決しない」で、人手不足の深刻化を背景に、問題が噴出する非正規雇用を取り上げた。「ブラック批判」を浴びる一部の企業にとどまらず、業種を超えた様々な企業で人材確保が困難になりつつある。本コラムでは、特集誌面には収めきれなかった企業の動きや経営者・識者のインタビューなどを紹介する。 第一回は、営業時間の短縮や休業する店舗が相次いだ牛丼大手「すき家」を取り上げる。アルバイトなど関係者の証言から勤務の実態に迫った。 「パワーアップ工事中」。4月下旬の土曜日の午後6時、東京都品川区にある総合スーパーのフードコートで、1店舗だけ閉店している飲食店があった。牛丼大手「すき家」の店舗だ。夕食時で混雑しており、同じフードコートに入居する「マクドナルド」「リンガーハット」「はなまるうどん」「築地銀だこ」には、軒並み行列ができていた。そん
戦争は人間にとって利益になるのか? あまりにも大上段に振りかぶった質問である。今回、なぜ、この疑問を投げたのかというところから話を始めたいと思う。 米国で4月、『War! What Is It Good For?(仮訳:戦争! 恩恵はいったい何なのか)』というタイトルの本が出版された。この直後から米国のさまざまな場で、識者たちが戦争の功罪について議論を始めている。 著者はスタンフォード大学歴史学部のイアン・モリス教授。2011年に『人類5万年 文明の興亡(上・下):なぜ西洋が世界を支配しているのか』という、こちらもまた大胆なテーマの書籍を世に出している。日本では今年3月に同書の訳書が出版されたばかりだ。 そして今回のテーマが戦争である。最初に述べておくと、モリス教授が説くのは「戦争の肯定」である。戦争という行為は、多くの場合、人間を殺傷することだ。それをなぜ肯定できるのかという疑問がすぐに
5月12日号の特集「背水の農 TPPショック、5大改革で乗り越えろ」ではオランダの植物工場を現地取材し、小国ながらも世界2位を誇る農産物の輸出力について紹介した。大規模化、生産性向上、コストダウンの3つを絶えず継続しており、3月下旬には安倍晋三首相が視察するなど日本政府関係者もオランダ詣でを繰り返している。 TPP(環太平洋経済連携協定)交渉でのライバルにあたる米国や豪州と違い、土地の広さが限られる日本でも効率的なオランダ型の施設園芸を今後展開したいとの思いがある。そうした動きを先取りし、日経ビジネスオンラインの連載ではオランダ植物工場の強さの秘訣に迫りたい。 トマトや花は世界トップの輸出シェア オランダの人口は1679万人、国土面積も415万ヘクタールにとどまる。いずれの規模も日本の1割程度という欧州の小国だが、農産物の輸出額は年間893億ドルと米国に次いで2位の座を保つ。農業はGDP(
遙から 同時期に二つのまったく両極端の節約術番組を見た。ひとつは明るい節約術。これはボンビーガールに始まり、貧乏芸人の暮らしぶりもまた、狭い・汚い・貧しい食生活(カップラーメンだけなど)、を基盤にした明るい貧乏だ。本人の明るさとは別に、見る側の驚くリアクションの落差で番組がバラエティとして成立している。 なぜ本人が明るいかというと「もし将来芸人として売れたら」という未来がある。夢を前提とした現在の貧しさはとりあえず明るい。貧乏は、若さと未来と希望で悲壮さは相殺され、見る側にも「自分も若い頃はああだった」といった既視感すら覚えさせ、貧しいほどに応援したくなるポジティブさに着地して番組は終わる。一か八かで入った芸能界で、本人が選び取った覚悟の貧しさ、という点において暗さはない。 覚悟のビンボーか、避けられなかった貧困か それに比べ、「女性の貧困」を取り上げたドキュメンタリーは、上記同様、狭い・
米国人は多額の寄付をすることで知られる。今年2月11日のCNNの記事によると、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)夫妻は、2013年の1年間に約10億ドル相当の株式(1千億円以上の価値)を寄付した。 去年アメリカで最も多額の寄付をした人々50人の寄付額を合計すると77億ドル(約7850億円)にもなる。ちなみに、2013年のカンボジアの名目国内総生産(GDP)は約156億ドルだった。アメリカで最も寄付額が高い50人の寄付の総額は、カンボジアの名目国内総生産(GDP)の約半分に相当する。 高所得でなくとも寄付をする米国人 寄付をするのは富裕層だけではない。国民慈善信託(National Philanthropic Trust)の報告によると、アメリカの家庭の88%が寄付をし、平均の寄付額は一家庭あたり年間2,213ドル(約22万7千円)にもなる。米シカゴ大学のジョン・
「形を変えた子供への虐待」「家庭のモラルが低い証拠」…。奇抜な名前を子供に付ける親への批判が高まって久しい。当の親の多くは「個性を重視した」と自画自賛。「珍名・奇名でなくキラキラネームである」と強調する人も多いが、世間一般の反応は温かいとは言えず、「就職の際にハンディになる」などと囁かれて随分経つ。 だが今、そんな「キラキラ=問題児&問題家族」という図式が変わり始めたと感じている人も少なくないのではないだろうか。実際、2月のソチ五輪では、活躍した選手の中に「簡単には読めない個性的な名前」が散見された。「命名文化の移ろいは想像以上に早い。珍名・奇名は今や少数派ではなく、キラキラネームだからと採用での優先順位を落としていると、有能な人材を採り逃しかねない」――。そんな主張をする命名研究家に、名付けの最新事情や、奇抜な名前が子供の人格形成に与える影響などを聞いた。 (聞き手は鈴木信行) 人間には
2006年にグラミン銀行総裁のムハマド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞し、マイクロファイナンスは世界的に大きな注目を浴びた。しかしながら、その翌年に非政府組織(NGO)として始まったメキシコのマイクロファイナンス、コンパルタモスバンコが4億6700万ドル規模の株式を上場した際、貧困層に年率100%以上の金利で貸し出しをして55%という高い自己資本利益率を実現したことが明らかになり、マイクロファイナンス組織による高金利での貸し出しが問題として取り上げられ始めた。 2010年4月13日付のニューヨークタイムズの記事では、メキシコのテクレモスという別のマイクロファイナンス機関も年率125%で貸し付けており、メキシコ全体のマイクロファイナンス機関の貸付の平均金利は年率約70%と法外な高さであることが報告されている。 マイクロファイナンスによる高金利な貸し付けはメキシコだけの問題ではない。途上国のマ
世界的には、再生エネルギーのコストは急速に下がってきており、再エネは高いという常識は過去のものになりつつある。今回は、大規模ウィンドファームやメガソーラーが相次いで運開している米国の最新情勢を取り上げる。その低コストは衝撃的である。 日本では「コスト高」扱いだが…… 日本では、いまだに再エネはコストが高いという前提で議論が進んでいる。公式に発電コストが見直されたのが2011年に開催されたコスト等検証委員会においてであり、同年12月に発表されている。 そのコスト水準が概ね固定価格買取制度(FIT)のコストの前提となっている。買取り価格は発電原価に事業収益率(IRR)、系統への接続費用を乗せたものである。コスト委員会の結果によると(2010年モデル)、kWh当たりで原子力8.9円(下限)、石炭9.5円、LNG10.7円、陸上風力9.9~17.3円、メガソーラ30.1~45.8円となっている。F
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度2年目が終わろうとする現在、太陽光発電ブームが最高潮に達している。昨年同様、多くの業者が価格引き下げ前の駆け込み認定取得を目指して殺気立っている。筆者の周りには、2年前ゼロからスタートして、初年度売り上げ10億円、2年目に40~50億円という会社が複数ある。「株式上場を目指す」という企業も出てきた。 ところが、その一方で、「太陽光もあと1年」と達観する企業も少なくない。3年目(2014年度)がピークで、そこから先は「下り坂」というのだ。「その先はどうしましょう」という相談も増えてきた。 ソーラーブーム「あと1年」の意味 2014年2月25日に発表された、エネルギー基本計画の政府案では、原発を「重要なベースロード電源」と位置づける一方、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーについても「2013年から3年程度、導入を最大限加速していき、その後も積極的
池田 信太朗 日経ビジネスオンライン編集長 2000年に日経BP入社。2006年から『日経ビジネス』記者として、主に流通業界の取材に当たる。2012年『日経ビジネスDigital』のサービスを立ち上げて初代編集長、2012年9月から香港支局特派員、2015年1月から現職 この著者の記事を見る
凄惨な事件だった。両会(全国人民代表大会と全国政治協商会議)という毎年春の政治イベントを前にした3月1日夜に起きた雲南省昆明鉄道駅の集団無差別殺人である。 3月2日の段階で30人以上が死亡、143人が負傷、うち75人が重体という。容疑者4人が現場で警官に射殺され、1人が逮捕された。昆明市当局は、早々に「新疆独立派のウイグル族によるテロ」と断定して発表した。 一部の中国メディアは911事件と比較して論評している。昨年秋の天安門車両突入事件から今回に至るまでの断続的なウイグルがらみの暴力事件は、米国の受けた同時多発テロと同じだ、いやそれよりも悪辣だ、と。暴力の連鎖が加速しそうな気配が漂い始めた。これを食い止めるにはどうすればいいのか。 「テロ分子を法に従い厳罰に処せ」 「301事件」と呼ばれる昆明駅無差別殺人の概要について、3月3日現在判明している状況は次のようになる。 現場は昆明市の官渡区、
森岡 大地 日経トレンディ記者 2006年、日経トレンディ記者、2013年、日経ビジネス記者、2014年に日経トレンディ記者。“イクメン”を目指し、仕事との両立に奮闘中。 この著者の記事を見る
日本の高騰する医療費は、政府の財政状況を逼迫させており、医療費の抑制は、政府にとって緊急の課題である。実際、政府は、診療機関へ支払われる保険診療報酬のカットや包括支払制度の導入等の「医者や病院」といった「供給」側を対象とした医療費削減政策をいくつか導入してきた。しかし、これまでの研究から、それらの政策が医療費削減に効果的であったという証拠はあまり得られていない。 医療費削減への代替案として、「需要」側に対するアプローチ、すなわち、「患者」に以前よりも多くの窓口負担を強いるという方法がある。しかし、患者の窓口負担の増加には、利点と難点の両方が考えられる。 高負担か、より良い健康か 利点は、窓口負担の上昇により、患者の無駄な医療サービスの利用を抑制できる点である。一方で、窓口負担を強いることで患者が必要な治療を受けないために、症状が悪化し、より深刻で費用のかかる病状に陥る可能性がある。もう1つ
気になる記事をスクラップできます。保存した記事は、マイページでスマホ、タブレットからでもご確認頂けます。※会員限定 無料会員登録 詳細 | ログイン 「時間資本主義」という概念は、流通アナリストとして小売業の事業戦略や消費者動向を調査している筆者にとっても、とても有益な「補助線」となってくれます。 第一回で紹介した「商品価値=商品代金+時間価値」という公式は、現代社会の構造を紐解くべく、「商品価値」そのものを再定義しました。この考え方は、これからの時代においてきわめて重要な真理です。 現在の様々な事象が「時間価値」で読み解ける 「時間資本主義」という「補助線」を頭の隅に置くと、各メディアの様々な報道も、不連続なニュースでなく、一つの枠組みにすっぽり収まります。 最近の事例でいうと、2013年後半の米国IT企業によるサービス業の省時間化や省力化の試み、例えばアマゾンの無人飛行機による宅配実験
村沢 義久 合同会社Xパワー代表、環境経営コンサルタント。 1974年東京大学大学院工学系研究科修了。1979年米スタンフォード大学経営大学院修了。2005年から東京大学サステイナビリティ学連携研究機構特任教授として地球温暖化対策を担当。合同会社Xパワーを立ち上げ代表に就任。2016年4月から現職。 この著者の記事を見る
日本では、児童養護施設を舞台にしたテレビドラマに抗議が殺到して、全スポンサーCM放映中止という異常事態になっていると聞く。タブーに挑戦するような「問題作」と言われるドラマは過去にもいくつもあったが、民放では「誰もが見る」がための公共性の制約もあり、クリエーターの意欲とスポンサーの意向が必ずしも一致しない問題は常についてまわる。 アメリカでも事情は同じで、地上波は何かと制約が多い。だが、実は抜け道がある。きわどいテーマや大胆な表現を扱いたい番組は、ケーブル専門チャンネルで流せばいいのだ。このため、ドラッグの話題を扱う「Breaking Bad」(AMC)や、中世の残虐処刑シーンも登場する「Game of Thrones」(HBO)のような大型ドラマが、続々とケーブルチャンネルから出て人気を博している。 母数となる視聴者の少ないケーブルチャンネルでも潤沢な制作費がかけられるのは、広告だけでなく
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