「張り子の虎」のシンガポールのイノベーション政策:独裁政権が粉飾して呼び込む海外からの投資 新井聖子 (慶應義塾大学SFC研究所 上級所員) 2021.05.31 21世紀の初め頃から,シンガポールは自らをR&Dに秀でた「イノベーション大国」として売り込み,海外から投資や人材を呼び込んでいる。しかし,グローバル・イノベーションについての経営学の常識では,企業が特にR&Dやイノベーションが目的の海外投資を成功するには,受け入れ国に魅力的な需要や市場(市場要因),もしくは重要な技術(技術要因)があることが必要条件である。 問題は,シンガポールはいずれの要因も備えていないため,この政策はうまくいっておらず,ここ数年,政府は政策の転換を図っている。にもかかわらず,シンガポール政府がまるでこの政策が成功しているように発表し,多くのメディアや本などもそのように書いているため,大きな誤解を生んでいる。