福島県川内村は、菜の花畑や豊富な山菜が見られ、初夏の色彩に包まれていた。穏やかな風景を前に、防護服に全身を包んだ住民は、やりきれない思いで通帳や衣類などを袋に詰めていた。 午前11時過ぎ、村民体育センターからバス5台に分乗して出発。約20人の報道陣も防護服を着て別のバスに乗り込み、後に続いた。 気密性の高い防護服は暑くて息苦しく、汗ばんだ蒸気でゴーグルは曇る。新緑の山道を約30分走ると、吉野田和地区に到着した。10世帯17人が帰宅する地区だ。 同県矢吹町で避難生活を送る秋元昭一さん(60)は自宅前で一度立ち止まり、恐る恐る犬小屋に近づいた。震災後、ペットの犬2匹に餌を与えるため自宅に数回戻ったが、この40日間、世話ができなかった。今回の帰宅の目的は、愛犬の様子の確認だった。 「ジョン」。1匹の名前を静かに呼んだが反応がない。近づくと、2匹は体を丸くして固くなって死んでいた。「助かる命だった