『日本を滅ぼした国防方針』(黒野耐、文春新書、2002年)を読みはじめたところ、しょっぱなでつまづいてしまった。「プロローグ」は「大東亜戦争という呼称」という見出しのつけられた節で始まっている。「先の大戦」をどう呼ぶかは「本戦争の歴史的意義をどのように評価するかという歴史観にもとづいている」(7ページ)というのはまったくもってその通りであるし、一般によく用いられる「太平洋戦争」という呼称が「アメリカだけとの戦争という錯覚を起こしがちになる」(8ページ)というのもその通りなのだが、では著者(自衛隊出身者)がどういう呼称を選ぶかといえば、「六カ国を相手に、太平洋・東亜全域で戦われた戦争という実態をイメージできる「大東亜戦争」の呼称を使用したいのである」(同所)、ときた。 奇怪なのは「近年になって「太平洋戦争」とする呼称が定着しているが」という著者の認識。家永三郎氏の有名な『太平洋戦争』(岩波書