ゴキブリだった。すぐ目の前にいたが、じっと動かないから気づかないでいた。認識し、驚いて「ワァオ」と声を上げる直前に、乾いた大きな音がしてゴキブリは弾け飛び、粉々になった。心臓が跳ね上がって反射的に後ろを振り返ると、安楽椅子に身を沈ませたままオートマチックのハンドガンを、大きな片手で包み込むように構えるグランマの姿があった。今年で80の古き良きアメリカのグランマが、大型のハンドガンを手にする事態もさることながら、驚きは何より、その銃口が俺に向けられていることだ! 既にハンマーは起こされ、トリガーにはグランマのしわしわの指が掛けられていた。 「ヘイヘイ、冗談はよしてくれよグランマ、俺はあんたのかわいい孫なんだぜ、それを」 乾いた大きな音と同時に、額に衝撃のような熱が走るのを彼は最期に感知したが、それきりだった。 さあて、もう後には引けない。この手であたしはろくでなしの孫をやっちまったんだからさ