『十六の夢の物語』とあるとおり、夢や、予兆、記憶、相似といった互いに異なる時代や場所で起きた複数の事象の間にある奇縁を主題にした作品が選ばれている。パヴィチは文学史家でもあり、セルビア文学史の大冊も刊行している。その該博な知識を駆使して、欧州の火薬庫とも呼ばれるバルカン半島はセルビアで起きた有名無名の歴史的事象を換骨奪胎、自在に使い回しては独特の奇譚を創り上げている。 その特徴は、リニアな読みを回避するところにある。長篇で用いた占いや事典形式の採用がその一つ。読みようによっていくらでも異なる世界が立ち現れる玄妙な小説作法だ。短編でそれを味わうのは難しいが「裏返した手袋」一篇は、題名同様、まるで手袋を裏返すようにほぼ同じことを書いたパラグラフを、折り返し地点で逆向きに書き連ねることで、読み始めと読み終わりで、逆の意味を持つ話にしてしまうという、離れ業をやってのけている。 「ヒョウとバッコス」