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ブックマーク / healthy-boy.hatenablog.com (9)

  • スポーツのない世界 - リオ・デ・ジャネイロの祭り

    大学を卒業してから14年か15年、正確には14年と何ヵ月ということになるんだろうけど、勤めてきた信用金庫を退職して、9月からあたらしい会社で働きはじめた。2000年、みたいなキリのいい数字は覚えやすいから大学に入学した年は覚えているけど、2018年というキリがよくない数字はきっとすぐに忘れてしまうだろう。 毎日外壁にひびが入りかけた古い二階建ての支店からスーパーカブに乗ったり軽自動車に乗ったりして営業に出かけていき、ノルマが達成できたとかできなかったとか、圧倒的にできなかったときのほうが多かった気がするけど、朝礼があったり終礼があったり夏の暑い日があったり冬の寒い日があったりしながら働いてきて、ここ数日はオフィスビルの27階、全面ガラス張りの空間で首から社員証をぶら下げてまわりの人たちが何をやっているのかまったくわからずに居心地悪く宙に浮かんでいるような日々を過ごしながら、14年か15年く

    スポーツのない世界 - リオ・デ・ジャネイロの祭り
  • 小説 - ポリチンパン(3)

    が家を出ていったことがきっかけではない、そう男は供述している。が出ていってしまったせいでやけになって事件を起こすなんて馬鹿げている、発端は結婚するよりも前にある、社会人になった瞬間からこうなる運命だったのかもしれない、そう銀行員の男は供述している。 供述によると、入行してすぐに行員専用カードローンを申し込んだ、というよりも申し込まされたという。三百万円まで自由に利用できる当座貸越枠を手に入れると、最初は(金利がもったいない、給料の範囲で生活していればカードローンなんて使う必要がない)と考え、借り入れすることを恐れさえしていた新入行員たちは、しばらくするとそれぞれが思い思いの、いわゆる遊興費とよばれる資金使途のためにATMにローンカードを挿入し、暗証番号と金額を入力し紙幣を手にすると、まるで打ち出の小槌でも手に入れたかのように気が大きくなって、二度目の借り入れまで時間はかからなかった、皆

    小説 - ポリチンパン(3)
    murashit
    murashit 2015/07/21
    盛り上がってきた
  • トウチャンは父になる - リオ・デ・ジャネイロの祭り

    まだ夜の早いうちから娘を寝かしつけるために一緒に布団に入り、尿意でという訳でもないけれど目が覚めて覚めた以上はトイレに行こうかと起き出して、起き出したついでにリビングへと入り、薄いカーテンを開けると人差し指の第二関節までで隠れるくらいの大きさの駅の灯りがみえて、台所の電気だけつけてキーボードを打ち出した。 十月三日、その日にちを特別に記憶していた訳ではなく、いま携帯のメールをみたらその日に届いていた「今日離婚届けを提出してきました」という母親からのメールを受信したとき、特に何も思うことはなかった。わざわざ弟とふたりでそろそろ正式に離婚したほうがいいと説得しに行った後の出来事なので、当たり前といえば当たり前だった。そんな説得をしに行った理由というのもひどい話で、兄弟ふたりとも近い将来父親の面倒をみるつもりがなく、それは金銭的な面だけでなく、一切関わりたくないという考えからであって、どうしてそ

    トウチャンは父になる - リオ・デ・ジャネイロの祭り
  • ノンストレス・ライフへの招待状 - リオ・デ・ジャネイロの祭り

    月曜日から金曜日まで毎朝シャツに袖を通しネクタイをしめて、ズボンをはいてベルトをしめて、ズボンと同じ色のジャケットを着てお弁当を持って自転車に乗って駅に向かうと同じ時間帯に駅に向かうスーツ姿の男たちがそれぞれ同じように自転車にまたがって赤信号の前に勢ぞろいする。名前も年齢もわからないけれど顔だけはなんとなく覚えていて、彼らとの距離によっていつもより家を出た時間が早いか遅いか判断できることもある。同じスーツ姿の男性でも、それぞれ違う顔をしていて、区別ができる、でももっと幼い頃はスーツ姿の男性をみれば、(働いている大人がいるな)と思うだけだったはずで、ましてやそれぞれのスーツ姿の男性が考えることなんて、それぞれの職業に関することだけだと考えていた節もあったような気がする。学校の先生は勉強を教えることだけを考え、警察官は泥棒を捕まえることだけを考え、消防士は火を消すことだけを、銀行員はお金のこと

    ノンストレス・ライフへの招待状 - リオ・デ・ジャネイロの祭り
  • ある晴れた気持のよい気候の午後、突然あなたの家のポストに小包が投げ込まれた。 - リオ・デ・ジャネイロの祭り

    ある晴れた気持のよい気候の午後、突然あなたの家のポストに小包が投げ込まれた。階段をのぼってくる足音の荒々しさ、投げ込み様からは普通の郵便局員による行為とは思えない。小包の消印はリオ・デ・ジャネイロ、封を開くと古いノートの束が入っていた。ノートの紙が繊維に戻ってしまう程古くはないそのノートは、いつの時代のものか判断できない。ごくシンプルな表紙のものもあれば、狸のイラストが描かれているものもあった。狸のイラストからは吹き出しが出ており、(じっと我慢の子ダス)と話していた。そのイラストの画調からも、台詞まわしからも、時代を推測することはできなかった。表紙を開くと日語でさまざまな文章が書き込まれていた。何気なく一冊目のノートを手にとったあなたは、窓の外がうす暗くなっても部屋の灯りをつけるのも忘れて読みふけりはじめた。 煙草を吸う理由として、間をもたせるために吸うと答える者が少なからずいることは周

    ある晴れた気持のよい気候の午後、突然あなたの家のポストに小包が投げ込まれた。 - リオ・デ・ジャネイロの祭り
    murashit
    murashit 2010/05/22
    天才。
  • 当然と言えば当然だが、アントニーとクレオパトラだけが古代エジプトのカップルではない。 - リオ・デ・ジャネイロの祭り

    1 当然と言えば当然だが、アントニーとクレオパトラだけが古代エジプトのカップルではない。近年、ナイル川のほとりにワンルームの小ピラミッドが発見され、世界最古の同棲カップルのものであることが明らかになった。「同棲」という概念が古代エジプトにあったのかどうかは、もちろんわからない。21世紀に生きる人の考え方と紀元前に生きた人の考え方が同じものであるはずはなく、それは犬には犬の思考があるにもかかわらず人間と同じ感情を持っているかのように捉えてしまうのと同様につまらない。 小ピラミッドの間取りは2DKであり、事をとる部屋と寝る部屋とを分けて生活していたのではないかと研究家は語る。この研究家は親日家で、日に向けて「エジプトに来るときは、必ずわたしに連絡してください。わたしが案内して最高の思い出を作るお手伝いをしますよ」というメッセージを発表したこともある。しかしながら、実際に彼に連絡を取ろうと思

    当然と言えば当然だが、アントニーとクレオパトラだけが古代エジプトのカップルではない。 - リオ・デ・ジャネイロの祭り
    murashit
    murashit 2009/03/25
    4に入ってからものすごい粟立ってくる感じが堪らなすぎる
  • それはかつて流行した、孫カードというものだった。- リオ・デ・ジャネイロの祭り

    二十代なかばの頃、いつまでもネクタイをふらふらさせておくのも大人げないのではと思いネクタイピンをはじめて買った。クリップのような形状をした金具を手にとってみると、ほんとうにこれでネクタイが固定されるのだろうか、動き回っているうちにネクタイとワイシャツとをはさみきれなくなって落ちてしまわないだろうかと不安になり、店員につめよった。心配はいらないと言い、店員はガラスケースから商品を取り出し、キャッシュレジスターの置かれた机へと案内した。 高齢者が住む家の玄関先に飾られた幼児の写真をみれば、それは孫だと考えてしまいがちだが、実は全く血のつながりのない、名も知らない幼児の写真が飾られていることも多い。それはかつて流行した、孫カードというものだった。 カードの表は幼児の写真であり、裏面には故意にふにゃふにゃさせた絵手紙のような文字でその幼児のプロフィールが記されている。二重まぶたの、瞳の大きな幼児

    それはかつて流行した、孫カードというものだった。- リオ・デ・ジャネイロの祭り
  • ボタン - リオ・デ・ジャネイロの祭り

    山手線で上野駅に向かう途中、佐々木は居眠りをしてしまい、目覚めると東京駅の医務室にいた。ひどい頭痛がしてベッドから起き上がることができなかった。数時間後、ようやく立ち上がり外へ出たとき、持っていたはずの紙袋がなくなっていることに気づいた。 佐々木はその日、上野の国立科学博物館の地下23階にある日秘密研究所へ向かっていたのだった。研究所への入り口は秘密になっていて、展示されているヒグマの口に、ICチップが埋め込まれた木彫りのマスを差し込むと床が地下23階へと急降下する仕組みになっている。佐々木に残されたのは、内ポケットに入れてあったそのマスだけだった。あとの荷物はすべて何者かに奪われてしまったらしい。佐々木は研究所のボスのことを思った。研究所のボスは20年前に肉体を失っており、特殊な溶液に入れられた脳髄だけが存在している。脳髄ケースからは、赤・青・緑・黄緑の四色のコードがのびていて、電光掲

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  • 帰宅してドアを開けると床にサッカーボール程の大きさの毛玉が転がっていた。- リオ・デ・ジャネイロの祭り

    恋人に別れを告げられてから一ヶ月が過ぎた。 帰宅してドアを開けると床にサッカーボール程の大きさの毛玉が転がっていた。人の毛と犬の毛を混ぜたような質感の塊が、風もないのに動いている。とても生きているようにはみえないが、乾いた笑い声のような音をたてて転がっている。(ずっと掃除をしなかったからほこりや髪の毛がたまってしまったのか)と考えていると、毛の塊が触手のようにのびてきて胸ポケットにさしてあったボールペンを奪った。奪ったボールペンを顔の前に持ってきたその仕草が催促しているように思えたのでペンをノックしてやると、床に落ちていた茶封筒に文字を書きはじめた。(マヤ文明の暦は2012年で終わっているから、2012年で文明社会は終わるかもしれない)と読めた。自宅の住所を横切るようにして書かれたので多少読みづらいが、そうとしか読めなかった。あと4年でなにもかも終わるのかと思うと胸がすっとするような感じが

    帰宅してドアを開けると床にサッカーボール程の大きさの毛玉が転がっていた。- リオ・デ・ジャネイロの祭り
    murashit
    murashit 2008/07/01
    やられた
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