私が三菱電機を辞めた理由のひとつは、組織のもつ全体主義的傾向を嫌ってのことだった。全体主義とは、皆が同じ考えをもつことではない。そんなことは不可能だ。全体主義とは、皆が同じ考えをもつことを強制することである。従って、全体主義のもとでは、人は皆と同じ考えを持っているふりをするようになる。 ひとつ象徴的な例がある。私のいた事業所では、改善活動が行われていた。いわゆる「カイゼン」活動である。製造業なら、どこでもやっていると思う。職員全員について、改善のノルマが課せられていた。技術者も、事務職員も、現場の職人も例外は認められない。通常は1月に1件以上だった。 どういうわけか、改善の効果は、節約時間によって計られることになっていた。そして、年度ごとにトータルの節約時間が定められ、各セクションにその時間が割り当てられた。この時間は最低の基準とされた。 誰の目から見ても、この改善活動は馬鹿げていた。一人