1963年生まれの精神科医がうつ病について論考を重ねた本だが、そのテーマの門外漢でも読み始めたら止まらなくなる面白さがある。「健全な懐疑心と論拠となる一次資料」で様々な定説を果敢に検証、時に常識破りの逆説を提示してみせる。展開がスリリングなのだ。 例えば、本書の執筆動機だったという「なぜ自殺者は3万を超えているのか」と題した第1章。 確かに日本の年間自殺者数は98年以来ずっと3万人超えだ。人口10万人当たりの自殺率を見ても、50年代のなべ底不況の数年間に匹敵する水準が長らく続いている。これはとんでもない社会問題だ、と識者らは言うし、国民の多くもそう思っている。 しかし、著者はそこに異を唱える。自殺リスクは10歳未満でほとんどなく、40代から60代が高い。そして日本の人口構造は少子高齢化が進んできた。要するに、自殺者数が3万人超えとなった主因は、団塊の世代が自殺好発年齢になったこと。人口構造