私は2歳の時に、かつて逓信省の技術者だった父を亡くした。肺炎だったという。残された母は私を育てるため、私を連れて札幌を出て、東京へやってきた。学生が暮らす一軒家に住み込んで、まかないの仕事をはじめたのだ。 その家を借りていたのは、おなじく北海道出身のOさんとTさんで、二人はそれぞれ東大工学部と慶大経済学部に通う大学生だった。彼らは多くの友人たちを家に招いていた。そのなかに戸坂さんという大学生もいた。 Oさんと戸坂さんは時折、まだ幼稚園児の私を駅前の居酒屋に連れて行った。男子大学生が2人で未就学児を居酒屋に連れて行く様子が周囲にどう映ったかはわからないし、そもそも2人がどうして私を連れ出そうと思ったのかもわからない。しかし私はその居酒屋の、座面の真ん中に穴の開いた緑色のスツールをよく覚えている。 OさんとTさんが大学を卒業したので、私と母は北海道へ戻った。 時は流れ、私は都内の大学を卒業し、
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