いまからちょうど20年前の秋、ある日系企業の駐在員で香港現法の社長を務めていた男性のガイド役で北京に行ったときのこと。「中国にも、名所旧跡の観光にも興味がないんや」と言って、オフの時間にホテルから出ようとしない彼を、北京に来て万里の長城も天安門広場も見ないで帰ったら土産話もできないからと無理やり引っ張り出した。ちなみに当時、中国の大気汚染は今のような深刻な状態ではなく、北京で秋の空の色と言えば、目に染みるような真っ青が当たり前だった。 その日も見事な晴天で、青い空に、天安門の鮮やかな朱色がよく映えていた。しかし彼は特に感慨もないようで、「もうホンマ、故宮博物院の秘宝とかに興味ないし。外からこうして広場と天安門と毛沢東の肖像画を見ただけで十分なんや」と現地に着いてすぐに帰ろうとする。広場を歩くか天安門に登るかしないとここの広大なスケールを実感できない、歩くよりも登る方が距離が短いから登りまし