話をしたのは一度きり。 名前も顔もよく憶えていないが、 いつまでも印象に残っている。 そんな人間がいるものである。 最初に彼を見たのはもう30年以上も前。 場所は郊外のキャバレー。 そこで働くホステス達の賃金未払いで トラブルが起きていた。 ホステスは日給つまり日雇いである。 地元の日雇い団体が支援に乗り出していた。 彼はそこのメンバーだった。 このとき立ち話をした印象では 年齢は推定で35歳前後か。 精悍な顔つき。学生時代は活動家だったかも。 そんなイメージだった。 記憶では現場のキャバレーに泊まり込むなどして 経営者側との交渉にあたっていたが、 結局その後どうなったか。残念ながら記憶にない。 彼を再び見たのは最初に出会ったから、 2年くらいが経過した師走の寒い日。 今度の場所は市役所であった。 路上生活者の凍死や襲撃事件が社会問題化していた。 労働組合やキリスト教団体などで構成する ホ