【読売新聞】
『沈黙』『深い河(ディープ・リバー)』などキリスト教信仰を扱った重厚な純文学作品を残した作家、遠藤周作(1923~96年)。人間の弱さに寄り添い、痛みを共にする。小説の中で描き続けたそんな母性的なキリスト像は広く日本人の心をつかんだ。一方で軽妙なエッセーも手掛け、出演したコーヒーのCMでは「違いがわかる男」として人気に。生誕100年の節目に合わせ、その多彩な仕事に光を当てる関連書籍が相次ぎ刊行されている。 コンパクトな作家案内『文豪ナビ 遠藤周作』(新潮文庫編、新潮文庫・880円)は生涯と代表的な作品の読みどころを丁寧に解説する。 遠藤文学に詳しい山根道公による評伝も読み応えがある。医者の家系の父のもと、二人兄弟の次男として育った遠藤。成績抜群の兄に劣等感を抱きつつも、母親からは文章力をほめられ、「大器晩成」だと励ましを受ける。母の意に従って12歳で受洗するが、その後の歩みは苦難の連続だっ
先月のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の余韻が今も残っている。準決勝、決勝は特にドラマチックで、漫画のような展開だった。日本勢が世界の舞台で示した〝強さ〟は野球ファンを増やし、そこから将来のスターが生まれるかもしれない。世界展開と裾野拡大―。漫画業界にも重なる部分がある。 侍(さむらい)ジャパンと同様、今の漫画市場には勢いがある。出版科学研究所によると、紙と電子版を合わせた昨年の推定販売金額は前年比0・2%増の6770億円。5年連続の成長で、過去最大を更新した。 海外でも日本漫画は存在感を高めており、大手出版社の海外展開も相次ぐ。集英社の海外限定の漫画配信サービス「MANGA Plus by SHUEISHA」は、月間利用者数約600万人に成長。昨年、米国での漫画売り上げ記録を更新した講談社も来月、米国向けの「K MANGA」を開始し、人気作などの日米同時公開を行う。 WBCで
《とぅーぬむかし(遠い昔)、あがりぬ(東の)おいちゅが(長者が)…》 歌うように語られる南の島の言葉は、意味が分からなくてもやさしく、どこか懐かしい。近年テレビなどで耳にする機会が増えたからだろうか。 これは、鹿児島県・奄美群島の沖永良部島に古くから伝わる昔話を方言で作った絵本『塩一升の運』(再話‥松村雪枝・田中美保子、絵‥山本史、ことばの解説‥横山晶子)の冒頭。 目で追うだけでなく声に出して読んでみるとまた味わい深い。発音が難しいけれど…。 何もしなければ絵本は琉球諸語の継承保存をめざして活動する「言語復興の港」(代表・山田真寛国立国語研究所准教授)が企画。3年前にクラウドファンディングで資金を集め、多様な島の言葉で4種の絵本を制作した。 琉球諸語とは、沖縄県と奄美群島で使われてきた方言の総称。物語は、浜辺で島の長者がうたた寝をしていると神様たちの話し声が聞こえてきて、生まれた赤ん坊に運
装いで性の境界を超える「異性装」に関心が寄せられている。昨年には東京の公立美術館で異性装をテーマにした展覧会が開かれ、それに続くように『異性装 歴史の中の性の越境者たち』(中根千絵ほか著、インターナショナル新書・1023円)が出版された。 男女のきょうだいが入れ替わる中世の物語『とりかへばや物語』、歌舞伎の女形が男性役として女装する演目『三人吉三』、男装のヒロインが活躍するシェークスピアの戯曲『ヴェニスの商人』など、物語や演劇に描かれた異性装に着目。古典文学の研究者8人が、そこに込められた意味や社会背景を読み解いている。 古典を出発点に漫画やアニメ、ライトノベルなど現代の創作物にも範囲を広げて影響関係を考察した。思えば、新海誠監督の大ヒットアニメ映画『君の名は。』も、『とりかへばや物語』に通じる男女入れ替わりの物語。また、『ベルサイユのばら』のオスカルのように、登場人物が男装・女装するスト
脱北したピアニスト、黄祥赫氏。初来日公演に臨んだ=令和5年3月15日、大阪市中央公会堂北朝鮮で幼少期から音楽の英才教育を受け、北朝鮮最高峰の音大で教授を務めた黄祥赫(ファン・サンヒョク)氏(49)が3月に初来日し、大阪市内でコンサートを開いた。西洋音楽に北朝鮮独自の文化を融合させたという「主体(チュチェ)音楽」を情熱的に奏でる誇り高きピアニスト。しかし2014年、ある事情から妻子を平壌に残し脱北した。北朝鮮と家族、そして日本への思いとは。 3月15日、欧州の宮殿を思わせる大阪市中央公会堂のホールに澄んだ音色が響いた。黄氏は北朝鮮音楽から、欧米で親しまれる賛美歌、クラシックまで12曲を独自のアレンジで情感豊かに演奏。全国から集まった約250人の聴衆を引きつけた。 「ピアノは西洋文化だが、北ではわが国の音楽を作ってきた。ベートーベンやショパンがクラシックとして現代まで受け継がれてきたように、わ
全国各地でアマチュア歌手が歌声を競うNHKの長寿番組「NHKのど自慢」が、4月2日の放送回から改編され、バンドの生演奏だった出演者の伴奏がカラオケに切り替えられる。NHKは「誰でも、どんな曲でも、気軽に挑戦できるようにした」と理由を説明するが、生伴奏を根強く支持するファンも多く、バンドによる演奏を惜しむ声が聴かれた。 改編では番組ロゴや舞台セットを一新し、冒頭のテーマソングはバイオリニスト、葉加瀬太郎さんの演奏にリニューアルされる。司会は、小田切千アナウンサーに代わり、二宮直輝、廣瀬智美の両アナウンサーが交代で務める。伴奏はこれまで、地域ごとでミュージシャンがバンドを編成していたが、カラオケに統一される。名物である合格・不合格を伝える「鐘」は、鐘奏者の秋山気清さんが番組を卒業、各地の地元オーケストラの打楽器奏者が行う。NHKは「訪れた地域のみなさんとお近づきになるために生まれ変わります」と
文部科学省の外局で国の文化行政を担う文化庁が京都市内の新庁舎で業務を始めた。 中央省庁の移転は明治以来初めてだ。前例のない試みである。京都の国際情報発信力に期待すると同時に、従来の枠にとらわれない発想で、都倉俊一長官のいう「文化芸術立国」へ歩みを進めてもらいたい。 文化庁の京都移転は、東京一極集中の是正を図る目的のもと、安倍晋三政権が掲げた「地方創生」の目玉政策として、平成28年に決定した。 東京に集中する首都機能の分散化は、地方活性化や災害リスク軽減を図る上で重要だ。政府機関の地方移転はその呼び水になると期待されてきたが、肝心の中央省庁が及び腰で、一部の移転にとどまった経緯がある。「全面移転」となったのは文化庁だけだ。 9課のうち、文化財や宗教関係の5課が京都に移り、全体の約7割弱に当たる390人体制となる。一方、他省庁との連携も多い文化経済・国際課など4課の約200人は東京で業務を続け
【読売新聞】前回コラムはこちら>> 編集委員 清水美明 また同じフレーズを繰り返してしまうが、もうろくしたせいではない。判で押したように戦争や戦後を取り上げる「8月ジャーナリズム」と同様、震災の「3月ジャーナリズム」は あ ( 、
どこまで強くなるのだろうか。衆目と期待を集める若者が、また一つ、「史上最年少」の勲章を手に入れた。 将棋の藤井聡太棋聖である。棋王戦五番勝負で11連覇の懸かった渡辺明棋王(名人)からタイトルを奪取し、史上2人目の六冠を成し遂げた。 20歳8カ月での達成は、平成6年12月に六冠となった羽生善治九段の24歳2カ月を、大幅に塗り替える最年少記録だ。 賛美の言葉が追い付かないほど、藤井棋聖の強さは群を抜いている。昨年2月に五冠となって以降、5度のタイトル防衛戦で迎え撃った相手は、棋聖戦の永瀬拓矢王座や王将戦の羽生九段らいずれも指折りの強豪だ。その挑戦を全て退け、令和4年度の勝率は8割台を維持した。 NHK杯テレビ将棋トーナメントなど、全棋士や上位棋士が参加する4つの一般棋戦も全て優勝した。同一年度では史上初の快挙である。 その一方で、勝敗を超えた将棋の醍醐味(だいごみ)を教えてもくれた。王将戦では
与謝野晶子の記事などを載せた図書・雑誌。『大正大震災大火災』(大日本雄弁会講談社、左上)の真っ赤な炎が渦巻く表紙絵は横山大観東日本大震災から12年の今年は、関東大震災(大正12年)から100年でもある。日本近代文学館(東京都目黒区)で開催中の「震災を書く」展(25日まで)では、恒例の東日本大震災関連展示に加え、関東大震災後に作家たちが書いた文章を紹介。同館では「災害と隣り合わせで生きる私たちの未来を考える機会に」としている。 文学者たちは震災でどのような言葉を書き残したか-生資料、雑誌など計50点の展示では、まず100年前にスポットを当てる。 歌人、与謝野晶子は現在の千代田区にあった自宅で被災し、火災を逃れて家族と土手で2晩過ごした。被災について書いた図書「大正大震災大火災」や、雑誌「女性改造」「婦人世界」の記事などを展示する。
ソウル中心部の光化門広場に面したビルの地下にある韓国最大の書店「教保(キョボ)文庫」はランチタイム後のブラリにもってこいだ。その「教保文庫」で2月の海外小説売れ行きベスト5が出ていたが、日本の小説が上位を独占し話題になっている。 1位が一条岬著『今夜、世界からこの恋が消えても』で2位が新海誠著『すずめの戸締まり』、3位が村瀬健著『この世の果ての鉄道駅』(原題は『西由比ヶ浜駅の神様』)で、5位にはベストセラー常連の東野圭吾の『希望の糸』が入っている。今、上映中の映画でも日本アニメの『スラムダンク』や『すずめの戸締まり』『鬼滅の刃』が人気上位を占めている。 日ごろ反日大好き(?)の韓国メディアも最近の街の話題として「日本旅行」「スラムダンク」「サントリーハイボール」を皮肉っぽく挙げているほど、韓国はただ今、日本ブーム復活である。そんな中で打ち出された尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の大胆な対日
闇の中で残雪に浮かび上がる万灯火=秋田県北秋田市合川地区(北秋田市提供)春のお彼岸(3月21日の春分の日を中心にした7日間)の季節がやってくる。一般的にはお盆のように仏壇を飾りつけたり、迎え火を焚いたりすることはしないが、先祖供養や他の行事と融合して独自の風習が残った地域もある。秋田県では、火を灯して祖先を迎え入れる風習が残っている。 灯火で祖霊を供養する風習は「万灯火(まとび)」と呼ばれ、文化庁が平成17年に「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選び、報告書を24年にまとめた。 報告書によると、風習は古来、秋田県北部と十日町市など新潟県南部で行われていた。万灯火は「窓火」「的火」「纏火」とする説もあり、土地によって別の呼び名もある。古代祖霊信仰に仏教の彼岸(あの世)思想が結合し、神聖な火で祖先を敬いながら春の訪れを喜び合うとされる。
文芸誌「文学界」と「すばる」の3月号小説は多かれ少なかれ現実の社会を映し出す。似た設定を用いた物語もけっこうある。でも「ほとんど同じ話だな」と感じることは実はあまりない。その題材を描く作家の個性がそれぞれに多様だから、どの作品も独自の輝きを帯びるのかもしれない。今月発売された文芸誌に、そんなことを考えさせる作品があった。 ◇ 「引きこもりは全国で100万人いるといわれ、その人たちがいずれ50代、60代になる。大きな問題だと思うんです」
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く