ボスが泣く。おれも来月でもう定年だ。ああボーイ、俺はくたびれた。ボスって呼ばれていたあいだ、缶コーヒー、ブルドッグ、シガー、ダブルのスーツ、ふんぞりかえって、でも俺はくたびれた。あのころ俺はいつでもタフだった。例えば誰か、あの経理のおばちゃん、知る人はみないいひとだと言う、俺だって傍から見てたらそー思うあのおばちゃんが、ある日俺にだけは何だかイヤげなこと言った気がした日、あれっ?って思った日、俺は自分を責めなかった。おばちゃんはちょっとだけ責めた。自分の方がやなヤツなんだって疑わないと言い聞かせた。あとで、ふーん、ほんとにぃぃ?と帰りの電車で自嘲したことぐらいはあった。みなそうして生きているよ、みんな同じさ。へえー、ほんとにぃぃ?と笑ってたんだ。でも俺はくたびれた。もうやっとの終わり。 ああボス、なにを今んなってそんなことを言ってる。ブルドッグのまま消えてくれ。あんたはいつでもそうだった。