トマス・ピンチョン著 『ブリーディング・エッジ』 原著が刊行されたのは2013年のこと、ピンチョンは当時76歳だった。作者の名を明かさずに本作を読ませたら、多くの読者がまさか70代の老人が書いたものだとは思わないだろう。ポケモン、『ドラゴンボール』や『AKIRA』をはじめ言及される数多くのポップカルチャーは昔懐かしのものだけでなくリアルタイムのものまで様々であるだけでなく(恐らくピンチョン自身の趣味のみならず91年生まれの息子との生活もあってのことだろう)、ITバブル崩壊直後(または90年代前半の日本がそうであったようにその残滓が漂うとしてもいいだろう)の2001年のニューヨークを舞台に、虚実入り交えたその設定は当時のIT業界、そしてコンピューター、ネット文化への凄まじいリサーチ(あるいはリサーチせずともピンチョンが日常的に馴染んでいたとも考えられる)を反映したものとなっている。 一方でピ