アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイス(1882-1941)にはしばしば「20世紀最大の小説家の1人」という肩書が付される。私がはじめてジョイスの作品に触れた新潮文庫の『ダブリン市民』の表紙の折返しに書かれていたのも、「20世紀文学は彼の圧倒的な影響下にある」という大層な文言であった。私自身、宣伝や広報を行う際にこの種の言葉を用いたことがあるが、そのときにはどこか空疎な気持ちがあったことも事実だ。その肩書を生むことになった著者の代表作『ユリシーズ』(1922)は、読まれないこと、読破できないこと、実際の読者が少ないことで有名だからだ。その意味では、2009年3月5日「世界本の日」に英国とアイルランドで行われた、1342人の回答者から導かれたある調査結果も、特段驚きには値しないかもしれない。実際には読んでいないのに、読んだふりをしたことのある文学作品についてアンケートを集計したところ、同書は
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