3月9日の朝、三菱重工業の神戸造船所には冷たい雨が降っていた。お年寄りや家族連れなど多くの人が地下鉄の駅から列を成し、造船所の門をくぐる。「もう空っぽや。ここで長い間、飯を食わしてもらったのに」。初老の男性が作る船の無くなった、がらんどうの工場建屋をのぞき込んで、寂しげにつぶやく。 神戸造船所は、この日をもって商船建造を終える。船腹余剰による受注条件の悪化、価格攻勢を仕掛ける中国や韓国メーカーとの競争、そして円高。造船業を取り巻く環境は、かつて無いほどに厳しい。「このまま国内の建造能力を維持することは、どう考えても難しい」(三菱重工の原壽常務)と判断し、神戸での商船建造から撤退し、下関と長崎にある造船所へと機能を集約する。 波打ち際に巨大な船が鎮座し、式の始まりを待っている。全長200m、幅32mで、総トン数は6万200トン。6400台の乗用車を搭載できる自動車運搬船「エメラルドエース」だ
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