8年ほど前、取材させてもらったことがある。池袋でゆるゆると営まれていた、あの「古書ますく堂」さんが大阪へ移転したという噂を聞きつけ、偵察がてら訪問した。迷わず到着できたのは、スマホの地図のおかげ。 小住宅が並ぶ路地の一軒に黄色い看板が上がっていた。靴を脱いで、本だらけのおうちにお邪魔する感覚で「こんにちは」。2間続きの和室の最奥にいた店主・増田啓子さんが「あの井上さん?」と覚えていてくださって、うれしいなー。 「コロナ禍に池袋の店、立ち退きになって。大家さんが、移転費用を全額出してくれるというので、思い切って来ちゃった」 確か、広島のご出身。大阪に地縁おありで? 「いや全然(笑)。学校が神戸だったので、神戸で探したけど、高くて……」 そんなやりとり中に「あ、そこ空けてあげて」と増田さん。あら失礼。左手にもう1部屋あった。そこで静かに本を選んでらした推定30代女性客が現れ、2冊をお買い上げに