近代将棋1989年10月号、谷川浩司名人(当時)の連載コラム「対局のはざまで」より。 「ちょっと、谷川先生に話があるんですけど」 NHKの対局を終えて、スタジオを出た瞬間に浦野六段に呼び止められた。 ―この男、将棋で負かした上に何の話があると言うのだろう。 「谷川先生に謝らなければいけません」 ―何か失礼なことでもあったかな。 「実は僕、今度結婚するんです」 ―えーっ。 本当に驚いた。趣味といえば麻雀とジョークぐらい。女性に興味がないという素振りを見せていた浦野君が結婚するとは―。 あまりに驚いたので、おめでとうの言葉が出てこなかった。 それにしても、彼は7月1日、私の祝賀会の時に、「脇さんと西川さんは、谷川先生より先に結婚してけしからん」などと平気で話していた。 本当にとんでもない奴だ。 「谷川先生も知っている人なんですけどね」 ここまでくるともう、誰なのか推理する気力もなくなっていた。