初夏の夕暮れにジィジィと気の早い蝉時雨に混じって聞こえてくる笛の音と太鼓の鼓動は、祭の季節が近いことを教えてくれる。それは隣町の子ども会に所属する少年少女たちが来るべき晴れの日の舞台に向けて練習を重ねる音だった。東北の人は祭好きな人種だ、というのは大体において正しい。規模の差はあれどどこの地区にもそれなりに歴史のある祭が存在し、その地区に住む人たちは幼少の頃から儀礼のように体へと祭を刷り込まれるのだ。そうであるならば「東北の人は祭好きな人種だ」というのは当然な話になってくる。ただ、私が生まれた福島県福島市という土地には他の県にあるような観光客も呼べるぐらい大規模な祭は存在しない。あるのはあくまでローカル向けの祭だけである。とはいえ、その熱がねぷたや花笠に劣るものとは思わない。 福島市において最も大きな祭といえばわらじ祭だった。煌びやかな神輿の代わりに職人によって藁で編まれた全長15メートル