著者: 滝口悠生 ここ数年、たくさんの人が様々な形で日記を書き、本にする、いわば「日記/日記本ブーム」が起こっています。日記本を集めて販売する催しが開かれ、日記を専門に扱う書店も注目されているようです。 今回は、そのような日記/日記本ブームの中心人物と言えそうな芥川賞作家の滝口悠生さんに、日記の魅力はどんなところにあるのか、とりわけ日記を「読む」ことに焦点を当てて、ご執筆いただきました。 他人の日記を読むこと 日記を読むのはおもしろい。そこには自分とは違う他人の生活の様子が記されている。他人の生活の様子なんか知ってなにがおもしろいんだと思う向きもあるだろうが、日記を読むのは他人の生活を「知る」ことではない。他人の生活を「読む」ことが、日記を読むおもしろさだ。 たとえば日記の形式をとった旅行記とか体験記ならば特別な出来事の記録という側面もあるだろうし、あるいは著名人なんかの日記を読むときには