文芸評論家、小林秀雄のエッセー『栗の樹』によれば、小林の夫人は子供のころ「人通りまれな一里余りの道」を毎日歩いて小学校に通っていた。4キロほどの道程である。中途に栗の大木があり、そこまで来て「あと半分」と思ったのだそうだ。恐らく大正のころだろう。 ▼前にも書いたこの話を思い出したのは、東京の児童・生徒が1日に歩く「歩数」のニュースがあったからだ。都教委が小中高生たちに歩数計を配って調べたところ、平均1万445歩だったという。どの学年も男子より女子の方が少なかったそうだ。 ▼全国でも初めての調査だから、以前と比べどうなのかは不明である。だが時代とともに減ってきているのは間違いないだろう。小林夫人のように学校まで往復8キロを歩く所など、めったにない。塾や習い事に追われ、隣町まで歩いて遊びにいく姿は見られなくなってしまった。 ▼都教委も1日1万5千歩が望ましいとしている。特に小中学生では歩数の多