私は京都大学で憲法や法律を学んだ。最初に戸惑ったのは、日本の裁判所の「統治行為論」という立場である。「自衛隊は憲法9条に違反しているか」というような国家統治の基本にかかわる高度な政治問題について、裁判所は司法判断を避けるべきであるという考え方だ。 法学部生なら誰しも最初に戸惑うこの問題について、ある教授が宴席で披露してくれた解説がとても印象的だった。おおむね以下のような内容である。 「裁判所は政治問題を決着させる場所ではありません。それは国会の役割です。裁判所は憲法が最も重視している基本的人権を守る場所なのです。政治的に対立している問題に立ち入ることは極力避けます。しかし、一人ひとりの基本的人権が侵害される個別の問題には積極的に介入し、その人の基本的人権を救済しなければなりません。裁判所は一つひとつの具体的な事案を詳細に検証して、目の前にいるひとりの人を救うための場所なのです」 「目の前に