附属図書館が所蔵する文庫のひとつに旭江(きょっこう)文庫と呼ばれるダンテ文献のコレクションがある。日本における民芸運動の父・柳宗悦デザインのex libris(蔵書票)でも有名なこの文庫は、市井のダンテ学者大賀壽吉(おおがじゅきち)(1865〜1937)がその生涯をかけて、なみはずれた情熱と努力で収集したものである。(中略)今ではあまり言及されることもないが、大賀壽吉は明治末期から昭和初期にかけて最もよく知られたダンテ研究者の一人であった。(中略) こうした実証的・文献学的な研究姿勢が、共に「イタリア会」を起こした、新村出、濱田耕作、黒田正利ら京都大学文学部の教官たちとの交流の上に成り立っていたことを、忘れるわけにはいかない。晩年の大賀を知る英文学者寿岳文章は、「昭和年代の初めから、私の心の片隅にあるダンテの聖甕に、いつまでも消えぬ灯を点じ続けたのは大賀翁である」と書いたが、69歳の寿岳を