八甲田山雪中行軍遭難事故――日露戦争を前にした訓練で、厳冬期の青森県八甲田山麓に入った陸軍歩兵第五連隊が遭難。199人もの死者を出した、世界最大級の山岳遭難事故である。この事故が100年以上経つ現在も広く知られているのは、新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』によるところが大きい。 だが、それはあくまで「小説」であって、史実ばかりではない。実際の雪中行軍は、どのように行われ、なぜ遭難したのか? その実態を追及したのが、青森の自衛官であった著者の前著『八甲田山消された真実』である。そこには映画「八甲田山」に登場する高倉健や北大路欣也のような格好良い指揮官の姿はどこにもなく、ただただ無謀で悲惨な行軍の実態が暴かれている。 『八甲田山死の彷徨』には、遭難事故を受けて、精神や鍛錬だけでは吹雪に勝てないと知った軍上層部がようやく重い腰を上げ、寒中設備を全面的に改良することに決めたというくだりが出てくる。