九嶺市。メキシコ並みの広大な自然とアメリカ中西部並みの人口の過密さを誇る町。住人はもれなく暢気で気候はほどよく過ごしやすい。しゃかりきに働く人間なんていなかった、むしろ人より猿の方が多かった。そんな前近代的なバブルにさえ乗り遅れたふざけた町。93年初頭、その町外れに小さな雑居ビルが出来た。5階建て、安普請、店舗は下からラーメン屋、美容院、ゲームショップ、ゲーセン、最上階はテナント待ち。僕はそのビルに入り浸っていた。美容院に入り浸るほど髪に気は使わない。ラーメン屋に入り浸るほどその店には魅力はない。ゲームショップとゲーセンが目的だった。ゲームショップはコピーソフト蔓延の、18禁ゲームが僕のような中学生にも買える店。ゲーセンはレトロゲームが中心でマニア心をくすぐり、しかも20円で1プレイ。オタクと烙印を押された哀れな子羊たちはもれなくその店に集まっていた。わけがなかった。オタクでなくてもゲーセ