丸山眞男は、おそらく戦後の思想家としてもっとも多く語られてきた人物だろう。彼の正式の著作は少ないが、その講義録や座談集まで数多く出版され、いまだに研究書が出される。そこには戦後の「進歩的知識人」の黄金時代へのあこがれもあるのかもしれない。本書もその一つで、これまでの多くの研究書とは違って、時事的な「夜店」の部分を捨象し、日本政治思想史という「本店」の部分に絞って丸山の思想の発展を跡づけたものだ。 しかし残念ながら、本店に絞ると、丸山の学問的な業績はかなり怪しげなものといわざるをえない。代表作である『日本政治思想史研究』も、彼の解釈は近代化論的な思い込みを荻生徂徠に読み込むもので、文献学的には疑問が多いとされている。むしろ丸山の本領はジャーナリスティックな「夜店」にあり、「本店」のほうはそれにアカデミックな飾りをつけたものと思ったほうがよい。 丸山が生涯を通じて闘ったのは、彼が晩年の論文