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猫
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『脱走と追跡のサンバ』 筒井康隆 ☆☆☆☆☆ 筒井康隆初期の名作を再読。私が最初にこれを読んだのは小学生の時で、はっきり言って意味が分からない部分が多かった(特にセックス絡みの部分)。しかし頭をぶん殴られたような衝撃は今でもはっきり覚えていて、小説とはこんなとんでもないことが出来るのかと驚愕したものだ。これは今読んでも変わらず、稀に見る異形かつ強力な小説だという評価は私の中で揺らがない。 とにかくあらゆる意味で常軌を逸した小説で、奇書と言ってもいい。この頃の筒井康隆はまだドタバタSFと言われていた頃で、この小説もそのフォーマットを利用しつつ、シュールレアリスムに限りなく接近した作品世界になっている。本書の主人公は筒井作品ではおなじみの「おれ」で、「おれ」はSF作家として生きる「この世界」で情報による呪縛、時間による束縛、空間による圧迫に苦しみ、「この世界」は実は贋物の世界で、以前「おれ
今日はいつもと趣向を変えて、私自身のオールタイム・ベストをご紹介したいと思う。まずは海外文学から。 一応ベスト10ということで10作品選んでみたが、数ある偏愛小説群の中からたった10篇だけ選ぶというのはかなり無茶な話で、だから今の気分で選ぶとこうなる、ぐらいにご理解いただければと思う。来月選べばまた微妙に変わってくるかも知れない。とはいっても、オールタイムベストというぐらいだからどれも昔から何度も読み、読む度にその素晴らしさを思い知らされてきた作品ばかりであり、そういう意味ではもちろん、そうそう大きく変わることはない。変わるとしたら、同じ作家の別の作品に置き変わるぐらいだろう。たとえばクンデラはなぜ『冗談』でも『不滅』ではなくこれなのか、とか、タブッキは『供述によるとペレイラは…』や『レクイエム』ではないのかとか、カフカはなぜ『審判』でないのかと問われても、多少の理由は言えないこともないが
『久生十蘭短篇選』 久生十蘭 ☆☆☆☆ 日本で買って来た久生十蘭の短篇集を読了。なかなか面白かった。久生十蘭は創元推理文庫の「日本探偵小説全集(8) 久生十蘭集」を持っているが、こちらは探偵小説全集という趣旨からか大部分が「顎十郎捕物帖」で、それ以外の短篇はほんのちょっとしか入っていない。渋澤龍彦が「稀代のスタイリスト」と賞賛した作家の本領を充分に感得できたとは言えなかった。その点、本書は戦後の名作と言われる作品をほぼ網羅して収録してある。 久生十蘭といえば江戸川乱歩的感性を受け継いだ<新青年>作家の一人、という印象があって、創元推理文庫の「久生十蘭集」収録の「湖畔」や「ハムレット」を読んだ限りその印象からそう外れてはいなかった。が、『日本怪奇小説傑作集2』に収録されていた『妖翳記』は実に洒落た作品で、おやと思ったのだけれども、本書を読んで納得できた。この人の作風は日本的に湿った怪奇、
『猫のゆりかご』 カート・ヴォネガット・ジュニア ☆☆☆☆☆ 『スローターハウス5』で他のヴォネガット作品が読みたくなりこれを入手。一応再読である。昔読んだ時はそれほど印象に残らなかったが、今回大幅に評価が上がった。本書は一般にヴォネガットの出世作ということになっていて、それまで熱狂的ファンはいるもののマイナーだったヴォネガットは、この『猫のゆりかご』で一気にメインストリームに躍り出た。それも納得の素晴らしい小説である。 「わたし」ことジョーナが語り手の一人称小説である。小説の書き出しは「私をジョーナと呼んでいただこう」で、『白鯨』のもじりだ。この「わたし」の語りは寄り道が多く、気ままで、断片的なエピソードを次々と繰り出していく。そのせいで章分けがとても細かく、目次を見るとなんと127個の章に分かれている。このあとトレードマークとなる、ヴォネガット・スタイルだ。訳者によればこの手法は本
『Secrets of the Beehive』 David Sylvian ☆☆☆☆ 元ジャパンのヴォーカリスト、デイヴィッド・シルヴィアンのソロ。ファンの間ではおおむねこれが最高傑作ということになっているようだ。私もデビシルのソロをもう一枚持っているが、やっぱりこっちの方が好きである。 ジャパンの頃はシンセサイザー主体でオリエンタルな旋律を聴かせるポップ・ロックをやっていたが、このアルバムはアコースティック楽器がメインである。ピアノ、アコースティック・ギター、ウッド・ベース。その上に、シルヴィアンのあの粘っこい低音のヴォイスが乗る。曲は静かなものばかり。枯淡の境地とでもいうか、水墨画の世界とでもいうか、とにかく枯れている。静かに、瞑想的な気分に浸りたい時に聴くと霊験あらたかな音楽である。昼間から聴くと気が滅入るので止めた方がいいかも知れない。 基本的にメロディがあるし、それなりにキ
『東京物語』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆☆ 小津の代表作のひとつ、『東京物語』を再見。モノクロ映画である。 最初に観た小津作品がこれだった。笠智衆と東山千栄子の老夫婦が子供たちに会うために田舎から東京に出て行く。「ほんにお楽しみで」「おたくはお幸せですなあ」「いやあ」近所の人とのなんのことはない会話、棒読みみたいな笠智衆のセリフ回し。そして開業医をやってる長男(山村聰)のところへ行って「いらっしゃい」「おじいちゃんとおばあちゃんいらっしゃったわよ」「ほんに大きくなって」「これおいしいのよ」 いやもう、まったくなんの変哲もない家族の風景である。こういうやりとりは子供の頃日常生活の中でよく見た。きっとみんなそうだろう。というあまりにありきたりの情景が続くので、これからどういう話になるのか最初はさっぱり分からない。 翌日、両親を東京案内する予定が急患でつぶれる。「いやあ、わしたちはええよ」「大
『少将滋幹の母』 谷崎潤一郎 ☆☆☆☆★ 『武州公秘話』が面白かったので続けて本書を購入。「王朝もの」である。私は「王朝もの」にヨワい。新潮文庫でも出ているが、新聞連載時の挿絵がそのまま収録されているというのでこっちの中公文庫版にした。「王朝もの」に挿絵がついたら「王朝絵巻」ではないか。私は「王朝絵巻」にヨワい。 メインのプロットはとてもシンプルだ。若くして老人の妻となった美女・北の方を傲慢な権力者・時平が酒の席の策略で強引に奪っていく。この北の方が、タイトルにある少将滋幹の母である。そして後年、滋幹は年老いた母と再会する。それだけだ。うーん、シンプル。ただそこに、かつて北の方の愛人だった色男の平中の話(侍従の君に言い寄るがなかなか相手にされず、北の方に未練が出て会おうとし、子供の滋幹の腕に歌を書いたりし、やがて侍従の君のせいで死ぬ)、時平の子孫の話(菅原道真の祟りでみな短命となり、滅
『若者はみな悲しい』 F・スコット・フィッツジェラルド ☆☆☆★ 光文社古典新訳文庫で出ているフィッツジェラルドの短篇集を読了。これは『グレート・ギャツビー』発表後に出されたオリジナル短編集である。訳者のあとがきにも書かれているが、フィッツジェラルドのオリジナル短編集をそのまま翻訳というのは珍しい。軽い読み物風の短篇もあってある意味新鮮だ。フィッツジェラルドのストーリーテラーとしての腕前も良く分かる。 9篇が収録されているが、私のお目当ては『冬の夢』だった。『ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック』の中で村上春樹が一番好きだと言っている短篇である。そう言いながら自分では訳していないので、これまで読んだことがなかったのだ。それにしても一番好きな短篇なら訳せばいいのに。 その『冬の夢』がやはり本短編集の中でベストだろう。例によってわがままで奔放で美しい女に振り回され、結局彼女から離れた青
『ナイフ投げ師』 スティーヴン・ミルハウザー ☆☆☆☆☆ ミルハウザーの新刊をようやく入手。一時は諦めかけた。Amazonで発売のとたんに在庫切れになってしまうのは、あれは一体どういうことだろうか? まあとにかく、入手できて良かった。12篇の短篇が収録されている。私の大好きな前作『三つの小さな王国』は濃厚な中篇集だったが、本書はまたバラエティ豊かで違った意味で濃厚なミルハウザーが味わえる。『イン・ザ・ペニー・アーケード』や『バーナム博物館』もいい短編集だったが、この『ナイフ投げ師』はそれらにもましていかにもミルハウザー的な短篇が揃っているような気がする。ミルハウザーは常にミルハウザーでしかない小説を書くが、それにくわえて『イン・ザ・ペニー・アーケード』では清新な抒情性、『バーナム博物館』では奔放な実験精神が印象的だった。そういう意味でいうと本書は、さらに熟成した濃縮ミルハウザーの詰め合
『架空の伝記』 マルセル・シュオブ ☆☆☆☆☆ マルセル・シュオブの『架空の伝記』は渋澤龍彦が「いつか訳してみたいと思っている」みたいに言っていて結局訳さなかったことや、Amazonで検索しても見つからないことからずっと日本語訳がないものとばかり思いこんでいたが、古本データベースで調べたらこの大濱氏が訳した本が出てきた。絶版になっていたのである。ただし古本で入手は可能だ。あー何ということだ、こんなことを今まで見逃していたとは、というわけで早速日本から取り寄せた。一冊の本がこれほど待ち遠しかったのは久しぶりである。 というわけでついに入手した長年憧れのシュオブ『架空の伝記』、もはや手に取るだけで恍惚状態。函に入っていて、ペラペラした薄紙付き。ちなみに『少年十字軍』ではシュウォッブと表記されているが、本書ではシュオブとなっている。 本書はさまざまな歴史上の人物(架空の人物もまじっている)の
『夜のみだらな鳥』 ホセ・ドノソ ☆☆☆☆☆ ラテンアメリカ文学の大傑作のひとつ、ドノソの『夜のみだらな鳥』を読了。最近じゃこの本も絶版になってるみたいだな。こういう異様な傑作かつ絶版本はそれだけで書物に妖しいオーラが漂ってる気がして貴重である。大切にしないと。 解説で鼓直氏が引用しているが、映画監督のブニュエルがこの小説を映画化したがったらしい。非常に良く分かる。もろブニュエル的と言っていい異形の物語だ。あえていえばブニュエルの世界よりもっと暗い。暗いと言っても陰気という意味ではなく、熱っぽい夜の闇のような暗さだが。タイトル通り、怪鳥が飛び交う夜の密林に迷い込むような濃厚な小説だ。ブニュエルの賛辞を引用する。「これは傑作である……その凶暴な雰囲気、執拗きわまりない反復、作中人物の変身、純粋にシュルレアリスチックな物語の構造、不合理な観念連合、想像力の限りない自由、何が善であり悪であり
『黒い時計の旅』 スティーヴ・エリクソン ☆☆☆☆☆ 写真は白水uブックスだが、私のは大昔に買った福武書店の単行本。一時期絶版になっていたらしい。再読だが、前読んだ時は斜め読みだったので読了してもほとんどわけわからなかった。もともとわけわからない小説なのに、斜め読みして分かるはずがない。 これも『夜のみだらな鳥』と同じように妄想系のシュールな小説である。時の経過がスピードアップしたり循環したりするし、別の場所にいる二人の人間が交感しあったりする。彼女がやってきた、と書かれていても本当に彼女がやってきたのか幻覚なのか脳内妄想なのか分からない。そういうのをリアリズム小説と同じように真に受けながら読むとすぐわけわからなくなってしまう。とはいえ、『夜のみだらな鳥』と比べるとまだましだ。 それから暴力性と、ノワールなアクションもの的な味付けがあるのも特徴。特に前半は主人公のバニングが人殺したり、
『アムニジアスコープ』 スティーヴ・エリクソン ☆☆☆☆☆ 未読だったエリクソンの『アムニジアスコープ』を入手、あっという間に読了。面白すぎる。しかも大変読みやすい。エリクソンの小説は好きな人にはたまらないが慣れない人はあまりに濃厚な幻視力に翻弄され、ついていくのが大変というところもあり、ちょっと読んでみようかなと思って挫折した人も多いのではないかと思うが、これなら大丈夫。ストーリーがいきなりあさっての方向に横滑りしていくなんてこともなく、しかも、エリクソンならではの面白さがたっぷりつまっている。 主人公はロスアンジェルスに住む作家、つまりエリクソンその人で、彼の日常生活や仕事や人間関係があまり脈絡なく綴られていく。だから突然別世界にワープしたり時空が歪んだりすることもないわけだ。このエピソードを適当に羅列していくというスタイルはバロウズの『ジャンキー』やフィリップ・K・ディック『ヴァ
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