香港デモの当時、その最初期から末期(コロナ禍初期)まで現場を取材してきた筆者が、5年ぶりに香港を訪れた。一見すれば拍子抜けするほど昔と変わらない、活気に満ちた街並み。だが、よく観察してみるとじわじわと違いが浮かび上がってきた。(全2回の2回目/最初から読む) 香港デモの黒歴史化 2019年の香港デモは、現地では「過去の出来事」である。もちろん最大の要因は国安法の存在で、出来事自体に言及するべきではないとする暗黙の了解も存在する(「デモ当時は交通が不便で困った」といった批判的な言及でさえ、言いづらそうな雰囲気がある)。 ただし、理由はそれだけではない。日本でメディアから得られる香港情報は、デモと国安法の話で時間が止まっているのだが、現地ではその後も日常が続いているからだ。5年の月日は意外と長く、とりわけ「イヤな記憶」「誰もよい目を見なかった記憶」は記憶のかなたに沈みやすい。