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「偽装」の日系人、アメリカ社会を笑う 宇沢美子『ハシムラ東郷 イエローフェイスのアメリカ異人伝』(東京大学出版)を読む 越川芳明 日系人ハシムラ東郷は、二〇世紀の初めに米国の新聞や雑誌のコラムの書き手として登場した。彼の書いたコラムは、ユーモア文学の大家マーク・トエィンにも絶賛されるほど人気を博した。 どこかおかしい日本人英語に、ばか丁寧な言い回し。中国人や日本人など黄禍論が盛んだったときは、「私たち日本人にも有色人排斥のお手伝いをさせてください」などと、トンでもないギャグをかましていた。 自虐的なユーモアで自らを笑い者にしながら、同時に黒人や日系人らの少数民族の人たちを無能扱いする米国社会の人種差別を笑う仕掛けだったのだ。 一人称で語るハシムラ東郷には、自分の顔かたちの描写がなかった。そのため、文章に添えられたイラストが米国の多様な価値観を反映していた。コラムやジャポニズムの人気を受けて
氷とサトウキビーーカリブ海のヴォネガット 越川芳明 カート・ヴォネガットは、ヨーロッパ的というか、より正確に言えばドイツ的なコンテクストで語られ易い作家かもしれない。中西部インディアナポリスのドイツ人コミュニティで生まれ育ち、母方の家はビール醸造家として財を築いたが、第一次大戦が勃発すると国内は反ドイツのムードに染まり、禁酒法が母方の家を廃業に追い込む。第二次大戦のときに、ヴォネガットは軍隊に志願入隊しヨーロッパに向かうが、ドイツ軍の捕虜になりドレスデンに送られ、そこで連合国の空軍による空襲に遭遇する。かれ自身は屠畜場の地下室で運よく命拾いするが、地上では13万人ものドイツの民間人が黒焦げになっていた。そうしたヨーロッパでの戦争がヴォネガット家やかれ自身に引き起こした不条理な出来事ゆえに、またかれがそれらを出世作『スローターハウス5』に書いたために、ヴォネガットがドイツ的なコンテクストで語
海外の長編小説ベスト10(解説つき) 越川芳明(アメリカ文学・ボーダー文化論) 1コーマック・マッカーシー(黒原敏行訳)『血と暴力の国』(扶桑社文庫) 『すべての美しい馬たち』をはじめ、国境三部作で九十年代にブレークした作家によるクライム小説。舞台は米国とメキシコの国境地帯で、ドラッグ・マフィア、ベトナム帰還兵の夫婦、動機なき殺人を繰り返す狂人、凡庸な保安官などが絡み、国境地帯が血と暴力の舞台と化す。ポストモダンの小説らしく、物語は複数の視点によって断片的に、テンポよく語られ、息をつかせない。マッカーシーは、現代版の「西部劇」を開拓したとの高い評価を、SF作家たちからも得ているが、「正義」も「悪」もなくなってしまうこの小説も、ポストモダンの「西部劇」とみなすことができるかもしれない。コーエン兄弟によって映画化され、『ノーカントリー』の邦題で公開中。 2ブルース・チャトウィン(芹沢真理子訳)
海外の長編小説ベスト10 越川芳明(アメリカ文学・ボーダー文化論) どんなに狭隘な世界に住んでいても、私たちの生活はグローバルな世界経済、国際政治と切り離されてはいない。 自分だけに通用する常識やイデオロギーを「他者」に投影するような素朴な語り口では、そうした複層的な世界を表現できないばかりか、害悪でさえある。 小説のよしあしは、そうした複雑きわまりない世界や語り手の自意識をどのように処理するかにかかっているが、それを大まじめにやりすぎると、一般読者を遠ざける難解なものになってしまう。 しかし、ここにあげた小説は、複雑な世界と歴史を扱いながらも、物語としてリーダブルなものばかり。すぐれたポストモダン小説の模範だ。 1コーマック・マッカーシー(黒原敏行訳)『血と暴力の国』(扶桑社文庫) 2ブルース・チャトウィン(芹沢真理子訳)『ソングライン』(めるくまーる) 3オルハン・パムク(和久井路子訳
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