井波律子さんの翻訳(2002年頃) ちくま文庫の正史三国志の翻訳でおなじみの井波律子(いなみりつこ)さんの翻訳。原文の講談調の息づかいを大切にしながらリズミカルに訳されています。張飛が劉備を呼ぶ時の「哥哥(コーコー)」という言葉を「兄貴」と訳している本が多いですが、井波さんは「哥哥(兄貴)」としています。 文語調の三国志演義の中で張飛のせりふだけ目立って口語調なのですが、その雰囲気を活かしたくて「哥哥(兄貴)」と訳されたのだと思います。劉備(りゅうび)に賄賂(わいろ)を要求する悪徳監察官に張飛(ちょうひ)が腹を立てる場面を下に抜き出してみます。 さて、張飛はヤケ酒を数杯ひっかけると、馬に乗って督郵(とくゆう)の宿舎の前を通りかかった。見ると五、六十人の老人が門の前でオイオイ声をあげて泣いている。張飛がわけを聞くと、老人たちは答えた。 「督郵さまは県の役人に無理強いして、劉公(りゅうこう)(