『冬の旅』立原正秋 新潮社[新潮文庫] 2024.03.23読了 罪を犯し少年院に入った宇野行助(ぎょうすけ)が、青春の日々約2年間を少年犯たちとの閉塞された集団生活に捧げることで、自己の内面を見つめ、罪とは何か、生きるとは何かを問いた作品である。良作であった。 こんなに優秀な模範囚はいるのかと疑ってしまうほどだ。それもそのはず、行助は本当の意味で罪を犯していない。義兄の修一郎が、母親を凌辱しようとするのを目撃し、なにかの弾みで修一郎を刺してしまうのだ。それでも刺した理由を語らず、内に秘めた復讐心を育む。頭の中に食い込むという手錠の感覚、とても良い。 もしかしたら俺はこの冷たさと重さを生涯忘れないかも知れない、と思った。手錠は、手首に食いこまず、行助の頭の中に食いこんできたのである。(16頁) いくらか時代錯誤な描写があるのは否めない。手紙や電報が伝達手段のメインである。学生たちの興味の方