第一回 不穏な宅配便 玄関の入口には先ほど届いた宅配便の段ボール箱が置かれている。不気味に思えて、ユカリさんはなかなか開けることができない。 魔法が解ける瞬間 夏休みをとった夫と2歳の娘を連れて、36歳のユカリさんはひさびさに実家にもどった。3泊するうちに激しい頭痛に襲われるようになった。正月に関西の夫の実家に泊まった時はこれほどではなかったのに。 8月になると盆地である故郷は35度を超える日が続くので、そのせいかもしれないと夫は言ったが、でもユカリさんにはわかっていた。それが母との接触がそろそろ限界に近づいている合図なのだということが。 3年前、妊娠がわかって帰省するまでは、母からの魔法はまだ解けていなかった。母に妊娠の報告をし、喜ばせたかった。職場も産休を十分とれるので、育児をしながら証券会社の第一線で働き続けるつもりだった。そんなライフコースを母も期待していると信じていた。 ひ