誰もが心に局所麻酔を打ち、おかげでどんな残酷なことも、悲惨なことも、すべては遠景での出来事としか感じない。そうした適応の仕方をわたしたちは巧みに身につけ、ハネケ監督はそれをシニカルに再現してみせた。 春日武彦(精神科医) ハネケの作品を観るのは憂鬱な作業だ。目も眩む暴力の煌めきを、吐き気を催すサディズムを、生理的不快感に浸りながら、期待する自分が嫌なのだ。その冷徹な職人技に畏敬の念を覚えるとともに、私は心からこのエンディングを喜んでいる。ハッピーであるかどうかは知らないが。 楠本まき(漫画家) 情け容赦のない展開を登場人物たちに浴びせかけるミヒャエル・ハネケは、それを安全な場所で眺めるわれわれ観客のことも見過ごさない。無傷のままでいられるとでも思っているのかと、一撃を加える。動揺を突きつけてくる。 岡田利規(演劇作家・小説家・チェルフィッチュ主宰)